研究課題
特別研究員奨励費
X線CT装置を用いた生物試料の撮影法のうち、位相差X線CTを用いた効果的な撮影法および鮮明なデータを得るための画像処理法を検討する。研究材料は博物館の収蔵標本を用い、多様な分類群を用いて撮影実験を行う。CT装置はラボスケールの装置に加えて、SPring-8の放射光CT装置を 用いる。撮影法の有効性を検証するために、造影剤を用いたCT撮影の結果とも比較する。
位相コントラストX線イメージングにより非破壊で貝類の標本の内部構造を撮影することに成功した。軟体部のイメージングでは、鰓、消化器官、生殖器官、口球軟骨、歯舌等を貝殻に覆われた状態で撮影し可視化できた。特に歯舌は軟体動物の種の識別に重要な形質であるが、貝殻を脱灰しない状態で十分な解像度で撮影することができた。これらの形質は従来のCT撮影法では殻付きの状態では撮影できないものであった。伝統的な内部観察の手法である組織切片作成法では、貝殻を脱灰する必要がある上に、動物体の内部(特に消化管内部)に含まれる堆積物によって組織が破壊されやすい点が問題であった。本研究で用いた手法はこれらの問題を回避する手段になり得る。貝殻のイメージングでは、貝殻内部に記録された成長線を可視化できた。全ての貝殻で成長線を可視化することはできていないが、アサリ等の一部の種では貝殻を切断しない状態で成長線の観察に成功した。さらに、アマオブネガイ等の一部の種では、アラゴナイトの殻層とカルサイトの殻層の境界部を明確に識別することができた。貝類には生貝標本が稀にしか採集されない稀少な種が存在する。現存する標本数が少ない場合、貝殻を破壊することは好ましくなく、またタイプ標本のように破壊的研究に用いてはならない標本も存在する。本研究の成果は、炭酸カルシウムの外骨格で覆われた標本の内部構造を非破壊で観察する有効な手法の例を示しており、貝類以外の生物の研究にも応用可能である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Communications Biology
巻: 7 号: 1 ページ: 17-17
10.1038/s42003-023-05457-y
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 120(1) 号: 1
10.1073/pnas.2210214120