研究課題/領域番号 |
22KF0083
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補助金の研究課題番号 |
22F21313 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 外国 |
審査区分 |
小区分17050:地球生命科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 嘉夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10304396)
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研究分担者 |
LI WENSHUAI 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
2023年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2022年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | セリウム / 安定同位体 / 化学種 / XAFS / REE |
研究開始時の研究の概要 |
元素が持つ地球化学情報である濃度や同位体比は、その元素の化学状態に依存し、それが各元素の元素サイクルを決めている。こうした分子地球化学的アプローチを発展させる上で、天然試料から原子分子レベルの情報を最も効率的に得られる放射光分析の有用性は極めて高く、Li氏が高橋と共同研究を進めこの手法を習得することで、関連する地球化学の発展に貢献する。そのためにも同位体と濃度が関連して特徴的変動を見せるセリウムは格好の研究対象である。本共同研究においてセリウムの分子地球化学を大きく発展できる。
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研究実績の概要 |
地球表層のCe同位体変動に対する酸化還元過程と非酸化還元過程の影響を評価するため、コロンビア川玄武岩(CRBs)上に発達したボーキサイトのCe濃度、酸化状態、同位体組成を測定した。ドリルコアから回収したボーキサイトは、Ce濃度が上昇し(5.4-88.7 ppm)、全体的にCeが枯渇している。Ce異常値(Ce/Ce*)は、Cowlitzボーキサイトでは0.4~6.3、コロンビアボーキサイトでは0.6~1.4と広い範囲であった。最も正のCe異常は、浅いレゴリス(深さ2-5 m)に現れる。セリウムは主に、堆積した外来物質(大陸の古い風化した地域の風に吹かれた塵)と一次CRBに3価の形で存在する。レゴリス中のCe (IV)の割合は、下方に増加する傾向がある。ボーキサイトCeはCowlitzプロファイルとColumbiaプロファイルでそれぞれ-0.161~-0.018‰、-0.277~-0.046‰の範囲となる。Ce同位体比の記録はCeとMnの酸化還元サイクルを反映しており、上部のダスト降着によってマスクされている。Ce(IV)の濃縮は遷移帯で起こり、CRBsからのCe同位体シフトはわずかである (Ceは-0.080~-0.04‰)。これは、MnO2駆動のCeO2沈殿に伴う微量同位体分別に起因すると考えられる。また、深部レゴリス(深度5-9m)では、玄武岩質からの負のCe同位体シフトと酸化CeとMnの濃縮が見られ、MnO2へのCe酸化吸着による大きな同位体分別が重要な役割を担っている。Ce/Ce*比;とCe/Mn比の鉛直差はCeはMnとCeの気候的な酸化還元サイクルに起因すし、浅いレゴリスにCeO2粒を残し、酸化したMnの堆積物に関連する同位体的に軽いCeを深いレゴリスに移動させた。このように、Ceの同位体比と異常値の組み合わせは、地上の酸化還元状態や変動を記録する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これらの研究を支える分析法の開発は、地球化学分野の発展に不可欠である。そのうひ、セリウム(Ce)の価数を正確に測定することは、地質試料中のCe異常を解釈し、(古)酸化還元を再構築するために重要である。しかし、地質試料中の微量Ceを検出するためのCe L3-edgeX線吸収端近傍構造(XANES)分光法は、共存するチタン(Ti)の蛍光発光線が近接するため、しばしばその適用が制限されることがある。そのため、CeのL3吸収端XANESスペクトルのS/N比は、高品質の分光分析には十分でない場合がある。本研究では、Ce L2-edgeの放射光X線測定により、Ti過剰Ce希薄地質材料に適した半定量的なアプローチに取りくんでいる。まず、Ce L2端XANESスペクトルは、L3端XANESと比較して、Ti Kβ発光の重複を避けることができ、Tiリッチ物質中のCe価数状態についてより信頼できる情報を提供できることを確認しました。さらに、遷移端センサー(TES)を用いることで、従来のシリコンドリフト検出器(SDD)よりも高い感度と優れたエネルギー分解能で蛍光X線(Ce Lβ1)を検出することができる。コロンビア川玄武岩から採取したボーキサイトの調査から、Ce L2-edgeXANESとTESを組み合わせることで、Tiに富むCe希薄試料(Ti/Ce質量比最大約6000、Ce数十ppm)からL2-edgeの弱いCe蛍光線を分離することができることを示した。この結果は、Tiリッチな地質試料中のCe酸化還元状態を調べることの実用的な可能性を強調するものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ここまでで確立したセリウム同位体比およびセリウムの化学種解析を発展させ、特に海底資源や古環境情報の記録媒体として重要な深海のマンガン団塊・マンガンクラストに応用していく。これらからセリウム同位体比の変動要因を探り、それに基づいて資源濃集現象や海洋での希土類元素のサイクル、また古環境の推定が可能になれば、セリウムの地球化学サイクルの研究として大きな貢献ができる。
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