研究課題/領域番号 |
22KF0107
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補助金の研究課題番号 |
22F22304 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 外国 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荒木 裕行 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (70431799)
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研究分担者 |
KIM HYUNGJIN 東京大学, 史料編纂所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2024年度: 200千円 (直接経費: 200千円)
2023年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
2022年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
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キーワード | 歴朝要紀 / 大日本史 / 徳川斉昭 / 鷹司政通 / 日野資愛 / 竹屋光棣 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、近世後期の朝廷をめぐる政治文化の特質を、水戸藩と高松藩が南朝正統論に基づく歴史書(『大日本史』と『歴朝要紀』)を各々編纂し、朝廷・幕府に献上した事例から検討するものである。近世朝廷・公家の史料は、幕府・武家の史料より保存状況が良好である。比較的豊富な朝廷側史料の情報を活用しつつ、なお幕府・藩の立場まで踏まえることで、近世日本の支配者(領主)層の政治的立場について満遍なく考察することができると思われる。
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研究実績の概要 |
本研究は、近世後期の朝廷をめぐる政治文化の特質を、19世紀前半の水戸藩と高松藩が南朝正統論に基づく歴史書(『大日本史』と『歴朝要紀』)を各々編纂し、朝廷・幕府に献上した事例から検討するものである。近世朝廷・公家の史料は、幕府・武家の史料より保存状況が良好である。比較的豊富な朝廷側史料の情報を活用しつつ、なお幕府・藩の立場まで踏まえることで、近世日本の支配者(領主)層の政治的立場について満遍なく考察することをめざした。 初年度においては、主に次のように史料の調査を進めた。①『歴朝要紀』編纂に関わる高松藩関係史料の伝来状況、および全般的な内容を調査した。②朝廷・高松藩の両方と密接な関係があり、なお前代からの『大日本史』編纂事業をも引き継いだ水戸藩主徳川斉昭の活動に関する史料を調査した。『水戸藩史料』や『茨城県史料』など、幕末の水戸藩に関わる従来の研究で広く参照されてきた翻刻史料集に収められていない史料の把握を心がけた。③その他、関白鷹司政通や光格天皇(1817年以降は上皇)と関係がある公家関係史料の調査を行った。 以上の調査においては、個々の調査史料に対しる深みのある分析よりは、全般的な伝来状況の把握、今後の研究のため複写を確保すべき史料の把握に重点をおいた。ただし、初歩的な確認作業のなかで、なお「現在までの進捗状況」に記載したような凡その内容分析の結果、および研究を進展させるための見通しが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究では下記のことが新たに分かり、研究の進捗状況は概ね順調と判断した。 1)高松藩は朝廷に『歴朝要紀』を献上するために、公家たちに非常に綿密な検討を受けた。当時の公家のなかで学識で評判の高かった日野資愛と竹屋光棣が、高松藩から送られた『歴朝要紀』草稿を検討し、校正意見や感想を書状にまとめて数回に渡って高松へ送った。その分量は膨大である。資愛・光棣が高松の依頼に形式的に応じたのではなく、かなり真摯に、隅々まで検討したことが分かる。場合によっては高松の編者側が資愛・光棣の意見に疑問を抱き、やりとりが重なって論争のような形になることもあった。 2)『歴朝要紀』が内容面で『大日本史』の影響を受けたことは以前から知られていたが、今回の調査により、内容面のみならず、その朝廷献上の過程でも『大日本史』の先例が影響していたことがわかった。高松藩は『歴朝要紀』献上に添える上表文についても資愛・光棣の検討を受けたが、資愛・光棣の意見書の内容から逆推すると、高松の編者たちは『大日本史』献上の先例をかなり意識していたことがわかる。 3)当時の水戸藩主徳川斉昭の動向について理解が深まった。斉昭は関白鷹司政通の姻戚であり、高松藩主松平頼恕の弟に当たる。朝廷・高松両方と密接な間柄である斉昭の関係史料について調査を進めたことで、幕末水戸の研究で主に参照されてきた『水戸藩史料』や『茨城県史料』などに紹介されていない史料から、斉昭の政治構想について新たなことがわかってきた。斉昭が山陵(古代天皇陵)修復や蝦夷地開拓について幕府に建議したことが知られてきたが、これらの案件について斉昭自らまとめた編著などの検討から、斉昭が山陵・蝦夷地問題の性格をどのように位置づけ、また朝廷・幕府に対する政治工作のなかで山陵・蝦夷地問題がどのように扱われたかについて理解を深める可能性がみえてきた。
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今後の研究の推進方策 |
1)『歴朝要紀』編纂関係史料の継続調査 香川県立ミュージアムに寄託所蔵されている『歴朝要紀』編纂・献上関係史料について継続調査を行い、必要があるものは複写物を獲得する。複写については、公家日野資愛と竹屋光棣が、高松藩側から送られた『歴朝要紀』草稿を見て校正意見や感想を記入して高松へ送った書状類が主な対象となる。 2)公家関係史料の調査 高松藩や水戸藩から『歴朝要紀』献上などの案件で連絡・依頼されることについて、朝廷側の対応を取り仕切ったのは関白鷹司政通であった。当時の朝廷内における政通の立場について理解を深めるため、政通に重宝された公家や彼らの周辺人物、また、政通以外の摂家の動向について調査を進める。先行研究であまり利用されていない京都大学・天理大学などの所蔵史料について調査を進めたい。 3)徳川斉昭関係史料の継続調査 水戸の徳川斉昭は関白鷹司政通と姻戚関係にあり、『歴朝要紀』を編纂させた高松藩主松平頼恕の弟でもあった。『歴朝要紀』校正・献上の段階で水戸の『大日本史』献上の先例が強く意識されたことも前年度の研究で確認できた。今年度にも、高松・水戸・朝廷のネットワークを知る手がかりとして、徳川斉昭関係史料について調査を続けていく。茨城県立歴史館など水戸市内に所蔵された関連史料も調査対象となる。斉昭の政治構想のなかでは、山陵修復など朝廷関係の構想と、蝦夷地開拓に代表される対外関係の構想がかなり結びついていたことが分かったため、蝦夷地開拓に関する斉昭の編著も検討対象に加える。そのため、北海道に所蔵する関連史料についても調査を行う。 4)研究成果の投稿と史料の翻刻 日本国外(韓国と英語圏)の雑誌にも研究成果をまとめた論文を投稿する。単一著作として分量が多い史料についてはOCR読取りを専門の業者に依頼して基礎的な翻刻データを作成することで、史料分析の効率化を図る。
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