研究課題/領域番号 |
22KF0153
|
補助金の研究課題番号 |
22F22385 (2022)
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 外国 |
審査区分 |
小区分43040:生物物理学関連
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
古寺 哲幸 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (30584635)
|
研究分担者 |
AMYOT ROMAIN 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,100千円 (直接経費: 2,100千円)
2024年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2022年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
|
キーワード | 原子間力顕微鏡 / 生物物理学 / 一分子イメージング / 計算機科学 / タンパク質 / 生体分子 |
研究開始時の研究の概要 |
ABCA1は、生体内のコレステロールの恒常性の維持の鍵を握るトランポータータンパク質です。本研究では、機能中のタンパク質の構造形態変化を可視化できる高速AFMを用いて、機能中のABCA1の動態をリアルタイム観察することで、ABCA1の形態を捉えつつ、コレステロールを分泌している機能中の様子を捉えることを目指します。また、AFMが観察できるのはnmレベルの分子の表面形状ですが、申請者が得意とする計算科学的手法により、観察されたAFM画像を再現する構造を再構成します。これによりAFMだけでは分からない分子内部までも含んだ構造情報を原子レベルで理解することを目指します。
|
研究実績の概要 |
当該年度は、脂質膜のナノディスクに埋め込んだコレステロール輸送タンパク質の高速AFM観察と、その機能メカニズムを詳細に理解するために計算科学的な手法をAFMの画像解析に取り入れるための研究開発を行った。 観察対象であるコレステロール輸送タンパク質のヌクレオチド結合ドメイン、コレステロールを蓄積するエクストラセルラードメインを明瞭に可視化するために、AFM観察基板面と垂直に脂質膜が配置するような分子の固定法を開発した。タンパク質タグやそれに結合する小分子、溶液条件を検討することで、目標としていた配置で分子を効率よく固定することができるようになった。その観察基板を用いて高速AFM観察を行った結果、ATP依存的に、目的のタンパク質の構造形態変化を捉えることができた。 これらの観察結果を高速AFMの時間・空間分解能を超えて解釈するために、計算科学的な手法を取り入れた。はじめに、Protein Data Bankに登録されている対象の分子の原子レベルのモデル構造にAFMの探針効果を入れて疑似AFM像を作成し、そこで得られた像が実際の高速AFMで観察した分子の形状が最も相関する分子の固定のされ方を比較した。ここで2つの画像(疑似AFM像と高速AFM像)に高い類似性を見出すことができた。さらに、タンパク質表面と観察基板の電荷分布を考慮して、分子がどのように配向すると最も安定に基板表面に固定されるかを計算する手法の開発に取り組んだ。これにより、AFMで観察されている分子の配向が理論的にもサポートされることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的のタンパク質分子は、膜タンパク質であり、比較的大きなエクストラセルラードメインとイントラセルラードメインを持つ。ヌクレオチドによる分子の構造変化や補助タンパク質による脂質輸送の効率化を詳細に観察するために、分子を目的の配向で固定することが重要課題であった(すなわち、脂質膜をAFMの基板面と垂直になるように配向させ、エクストラセルラードメインとイントラセルラードメインを観察できるようにする)。タンパク質分子に付いた精製タグと観察基板の電荷状況を考慮して、分子を配向させるために様々な小分子や溶液条件を検討した。その結果、目標としていた配置で分子を効率よく固定することができるようになった。これにより、目的のタンパク質分子の構造ドメインを識別しながら、脂質膜の形態変化を詳細に観察できるようになった。この系を用いて高速AFM観察したところ、ATP依存的に、目的のタンパク質の構造形態変化を捉えることができた。本研究を進めるための大きな課題を乗り越えたと判断できる。 また、高速AFMの時間・空間分解能はサブ秒オーダーとナノメートルオーダーであり、分子の機能メカニズムを詳細に解析するには一層高い分解能が求められる。そこで、得られた高速AFM像の時間・空間分解能を超えて分子の動態を解釈するために、計算科学的な手法の研究開発に取り組んだ。外国人特別研究員がこれまで開発してきた手法(Amyot et al., PLoS Compt. Biol. 2022)を試みた。高い相関を得る分子の配置は、観察されているAFM像と矛盾せず、AFM画像中のどの部位がタンパク質のどのドメインに対応するかを類推することができた。この手法は形状ベースの計算しか行っていなかったが、分子の配向の妥当性を理論的サポートするため、電荷の相互作用を考慮した計算方法の開発に取り組んでいる。開発の目途が付いている状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
高速AFM観察については、これまでに観察されているタンパク質の形状が想定されているものかを明らかにするために、タンパク質の各ドメインに特異的に結合する抗体を用いた実験を行う。また、観察されているタンパク質の形状変化がATPの加水分解反応によるものなのか否かを調べるためのコントロール実験を行うとともに、観察像をより高い時間分解能、空間分解能で得ることに取り組む。コントロール実験としては、ヌクレオチド状態を変更したり、ATP加水分解の阻害剤、ATP加水分解の変異体タンパク質を用いることを計画している。AFM像をより高い空間分解能、時間分解能であるために、研究室で開発を行ってきている次世代型の高速AFMのデバイスを取り入れる。空間分解能は、主に探針先端の曲率半径で決まる。探針を作成するための走査型電子顕微鏡がリニューアルされ、作成条件の検討が求められている。先鋭な探針を作成するための材料を検討したり、作成条件を変えたりすることで、できるだけ早い時期に従来レベルの探針を作成できるようにする。また、従来型よりも高度な電子顕微鏡であるので、さらに条件を検討してより先鋭な探針が得られるかも検討する。 計算科学的な手法の開発について、当該年度に開発を行ったタンパク質や観察基板の表面電荷を考慮して分子の基板への固定のされ方を見積もる手法を洗練化する。代表的な、モデル分子のAFM像を用いて手法の妥当性を検証するとともに、課題点を改善する。さらに、本研究課題でターゲットとしているタンパク質分子に適用することで、理論的にもサポートされた分子の基板への固定のされ方であることを実証し、分子の形状変化を高速AFMの時間・空間分解能を超えて解析することで、分子の機能メカニズムの詳細に迫る。
|