研究課題/領域番号 |
22KF0281
|
補助金の研究課題番号 |
22F22020 (2022)
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 外国 |
審査区分 |
小区分17040:固体地球科学関連
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
土屋 卓久 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 教授 (70403863)
|
研究分担者 |
HUANG SHENGXUAN 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
2024年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
2023年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
2022年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
|
キーワード | 核-マントル間の窒素分配 / 地球外核の化学組成 / 地球の揮発性元素進化 / 第一原理自由エネルギー計算 / 熱力学積分法 |
研究開始時の研究の概要 |
地球外核は鉄を主成分とし約10重量%の軽元素を含む液体金属であることが分かっているが、軽元素の量や種類の詳細は現在でも未解明のままである。これらの軽元素は、原始地球に存在したマグマ・オーシャン中において核が形成される際に核に溶解したと考えられるため、その種類や量を特定することは、地球核の形成メカニズムの解明につながる。窒素は地球大気の主成分元素であるが、地球全体でみれば太陽系における平均存在度よりも枯渇していることが分かっており、窒素が核に溶け込んだとすればこの問題を説明できる。本研究では、実験困難な高温高圧下における窒素の液体鉄-熔融ケイ酸塩間分配を独自の第一原理計算手法を用いて予測する。
|
研究実績の概要 |
本研究では、地球深部の高温高圧条件下での液体鉄-熔融ケイ酸塩間における窒素の分配特性を明らかにすることを目的として、独自開発した第一原理熱力学積分分子動力学法(AI-TI-MD法, Taniuchi and Tsuchiya, 2018)を用いて、窒素の分配係数に対する温度・圧力・酸素雰囲気の効果や、N2、NH3、FeNなどの窒素の化学種の相違による影響について解明する。本年度は本格的な計算を開始するのに先立ち、計算条件の最適化を行った。予備的な計算の結果、地球の核-マントル境界に相当する135万気圧の圧力において、N2、NH3、FeNはいずれの化学種も親鉄的な挙動を示すこと、またN2、NH3、FeNの順に親鉄性が減少することが分かった。求められた分配係数の値は0~20万気圧程度の低圧下で測定された実験結果と同程度であった。また、熔融ケイ酸塩について鉄を含まない還元的な組成と鉄を含む酸化的な組成の2通りで計算を行った結果、還元的な場合の方がより親鉄的となることが分かった。これらの結果から、基本的な計算条件を適切に設定することができたと考えられる。今後、温度圧力条件を実験が可能な領域にも拡張し、計算の信頼性を注意深く確認するとともに、熔融ケイ酸塩中の鉄濃度だけでなく、液体鉄中の酸素濃度も系統的に変化させて計算することにより、液体鉄-熔融ケイ酸塩間での窒素の分配特性を包括的に解明する。その後、得られた窒素の分配係数を用いて原始地球の成長過程に伴う核、マントル、大気中の窒素量の進化をモデル化する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一原理熱力学積分分子動力学計算法(AI-TI-MD, Taniuchi and Tsuchiya, 2018)を、窒素の液体鉄-熔融ケイ酸塩間分配に適用するための計算条件の最適化を行い、N2、NH3、FeNの異なる複数の化学種に対して分配係数を計算することができた。これにより次年度において実施を計画していた、液体鉄-熔融ケイ酸塩間における窒素の分配特性に対する温度・圧力の効果についての計算を前倒しして開始することができた。液体鉄中の酸素濃度や熔融ケイ酸塩中の鉄濃度の効果についても計算を進めることで、高圧下での定量的な実験測定が困難な窒素の分配特性についての包括的な理解が可能となる。現在までの進捗状況から、これを実現する道筋が十分に整ったといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に行った事前検討に基づき、単純な反応から順に計算を開始し、より複雑な反応へと展開する。まずは熔融ケイ酸塩組成として(Mg,Fe)SiO3を、液体鉄組成として純鉄を設定する。温度圧力条件としては、マグマ・オーシャン上部に対応する20GPa、4000Kから、マントル最下部に相当する135GPa、5000Kの範囲に設定し、分配特性に対する温度や圧力の影響を明らかにする。これらの単純な反応系についての計算が終了したのちに、より複雑かつ現実的な組成での計算を本格的に開始する。まず液体鉄に酸素、炭素、硫黄、珪素、水素を加えることにより核中の軽元素が窒素の分配に与える影響を調べる。10GPa以下の圧力範囲においては、核中に炭素が含まれている場合は窒素の親鉄性が減少、硫黄や珪素が含まれている場合は増加することが、実験的に示されている。同様の挙動が第一原理的に再現できるか確認するとともに、より高い温度圧力条件でも計算を実行する。次に熔融ケイ酸塩にアルミニウムやカルシウムを加えてより現実的なマグマ・オーシャンの化学組成を設定し窒素分配に与える影響を調べる。また、窒素の化学種を酸化的なN2や還元的なNH3に変化させることにより、化学種の相違が分配特性に与える影響についても調べる。液体中の窒素原子周りの局所原子構造や電子状態を解析することにより、様々な組成条件における挙動の相違を原子・電子レベルから解釈するとともに、これを通じて窒素の分配機構の解明を行う。これらが終了したのち、温度・圧力・組成をパラメータとした液体鉄-熔融ケイ酸塩間の窒素分配のモデル化に着手する。さらに得られたモデルを用い、原始地球の形成・成長に伴う核・マントル中の窒素濃度進化のモデル化及び地球内部における窒素循環について考察を行う。
|