研究課題/領域番号 |
22KJ0021
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補助金の研究課題番号 |
21J20980 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鶴井 真 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2021年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
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キーワード | 希土類 / 配位高分子 / 錯体 / キラル / 円偏光発光 |
研究開始時の研究の概要 |
キラル配位子を導入した希土類錯体は発光の左右円偏光に強度差が生じる円偏光発光(CPL)を示す。特に、キラルユウロピウム(Eu)錯体はCPLの異方性因子が大きいことが知られている。一方で、配位子から金属への電荷移動(LMCT)遷移による準位を形成し、この準位が発光の消光部位となる。さらに、このLMCT遷移はCPLの異方性因子にも影響を与えることが明らかになっている。本研究ではキラルEu錯体の立体構造およびLMCT遷移を制御することで、CPL特性に影響を与える因子を明らかにし、CPLの異方性因子を増大させる偏光分子材料の設計指針を示すことを目的とする。
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研究実績の概要 |
キラル分子が配位したユウロピウム(Eu)錯体は発光の左右円偏光に強度差が生じる円偏光発光(CPL)を示す。この偏光機能は三次元ディスプレイや高度セキュリティインクなどへの応用が期待されており、CPLの異方性因子(gCPL)を制御するメカニズム解明が求められている。本研究ではキラルEu錯体の配位構造およびその配列を制御することでCPL特性に影響を与える因子を明らかにし、gCPLを増大させる偏光分子材料の設計指針を示すことを目的とする。現在までに、以下の二つの観点からCPL制御のメカニズム解明を目的とした検討を行った。 1.相転移特性を有するキラルEu配位高分子の合成 相転移特性を示すキラルEu配位高分子の検討と配位子場歪みを制御した配位高分子の合成に成功した。この配位高分子の構造および光物性評価により、相転移に伴って配位幾何学構造を維持したまま高分子鎖の配向が変化することが明らかになった。gCPL値は相転移の前後で3倍変化したことから、同一の配位構造であってもその配列によりCPL特性が影響を受けることを示した。 2.配位子場歪みを制御したキラルEu配位高分子の合成 結晶場を固定しながら配位子場を歪ませるために、剛直な架橋配位子を用いたキラルEu配位高分子を設計・合成した。単結晶X線構造解析の結果、置換基の長さが伸長するにつれてβ-ジケトナト平面の歪みが増大することが分かった。gCPLは配位子場歪みの増大に伴い2倍以上変化した。量子化学計算(TD-DFT)の結果、LMCT遷移における双極子モーメントの方向変化がf-f遷移に影響を与え、gCPLの変化に寄与していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目標は高い発光量子収率と大きいCPLの異方性因子を示すキラル希土類配位高分子の創成であり、そのためには錯体におけるCPLを制御するためのパラメータを明らかにすることが重要となる。 本年度はキラルEu配位高分子における配位子場の歪みがCPL特性に与える影響について検討を行った。結晶場を固定しながら配位子場を歪ませるために、剛直な架橋配位子を用いたキラルEu配位高分子を設計・合成した。配位高分子を構成するキラル配位子のフルオロアルキル鎖長を変化させることで配位子場の歪みを誘起することができると考えた。 合成した配位高分子の単結晶X線構造解析の結果、置換基の長さが伸長するにつれてβ-ジケトナト平面の歪みが増大することが分かった。一方で、結晶場に依存する発光スペクトルのシュタルク分裂形状は変化しなかった。したがって、結晶場を固定しながら配位子場歪みを制御することに成功した。また、gCPLは配位子場歪みの増大に伴い2倍以上変化した。量子化学計算(TD-DFT)により配位子から金属への電荷移動遷移(LMCT遷移)における双極子モーメントの方向が大きく変化することが分かった。gCPLはf-f遷移における電気および磁気双極子モーメントの角度に大きく依存する。本研究によりLMCT遷移の方向変化がf-f遷移の電気双極子モーメントの方向に影響を与え、gCPLの変化に寄与していることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
CPLの異方性因子が大きいことが報告されている四つのキラルβ-ジケトンが配位したEu錯体に着目し、この分子配向を制御することで異方性因子の最大値を達成することを目的とする。ここで検討する四つのキラル配位子で構成されるEu錯体は一つのカウンターカチオンを有する。そのカチオンとして有機カチオンを導入する。有機カチオンは金属イオンと比較して構造の制御が容易であるという特徴を有する。対カチオン種が異なるEu錯体を比較検討することにより、Eu周辺の配位幾何学構造を維持したまま、分子配向を系統的に評価することが可能となる。有機カチオンとして第四級アンモニウムカチオンを第一選択とし、新規なEu 錯体を合成する。合成した錯体は質量分析、元素分析、FT-IRにより同定を行う。単結晶構造解析により錯体の配位幾何学構造および対カチオンを介した錯体間距離や配向を明らかにする。光物性は結晶の発光スペクトル、発光寿命およびCPL測定により評価する。さらに、単結晶構造解析によって得られた構造を基にした量子化学計算により、電荷移動遷移の特性を評価する。
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