研究課題/領域番号 |
22KJ0047
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補助金の研究課題番号 |
22J10172 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
菊地 渉太 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,700千円 (直接経費: 1,700千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 超弦理論 / コンパクト化 / トーラスオービフォールド / モジュラー対称性 / フレーバー対称性 / フレーバー構造 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、ヒッグス粒子の発見によって素粒子物理学の標準模型が確立された。しかし標準模型は万物の理論ではない。標準模型の問題の1つが「フェルミオンの3世代(フレーバー)構造の起源」だ。フェルミオンの世代を超えた相互作用が実験より確かめられているが、この現象の起源を標準模型では説明できない。また、世代毎の質量に大きな差(階層性)があることも分かっているが、起源はやはり不明だ。 10次元理論である超弦理論は標準模型を超えた理論の候補として知られている。本研究ではフレーバー構造の起源が超弦理論の余剰6次元空間にあると考え、超弦理論のトーラスコンパクト化およびオービフォールドモデルからの再現を試みる。
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研究実績の概要 |
近年の実験により発見されたヒッグス粒子は、素粒子標準模型の正しさを確かなものにした。しかし、標準模型では説明のできない実験結果(問題)も依然として存在する。その一つが「フェルミオンの3世代(フレーバー)構造の起源」である。 10次元理論である超弦理論は標準模型を超えた理論の候補である。この宇宙は4次元時空であるように見えるため、超弦理論の余剰な6次元空間は観測できないほど小さく丸まっている必要がある(コンパクト化)。本研究ではフレーバー構造の起源がこの余剰6次元空間にあると考える。特に、余剰6次元空間を3つの2次元トーラスの直積のZ2オービフォールドにコンパクト化した、超弦理論のトーラスオービフォールドコンパクト化モデルに焦点を当て、フレーバー構造の再現を試みた。結果、a)フレーバー構造の再現可能性はフェルミオンの質量行列がランク1となる構造の有無で決まる、b)その構造は、波動関数の零点というコンパクト化の幾何に関わる情報から定められる、ことが分かった。 また、超弦理論よりも低いエネルギースケールにおいて、トーラスの幾何学的対称性(モジュラー対称性)を持ったモデルを仮定し、フレーバー構造の再現に取り組んだ。このようなモデルは上述のトーラスコンパクト化モデル等からの導出が期待される。その意味で、超弦理論と実験の中間段階からの再現といえる。この研究ではフレーバー構造の質量階層性やCP位相の破れとモジュラー対称性の破れ方の関連を突き止めた。 このように、2つのアプローチで再現研究に取り組んだ。超弦理論の視点ではモジュラー対称性も幾何に関連する情報である。すなわち、両者のアプローチを通して「フレーバー構造とコンパクト化の幾何」の関係性を見出した。超弦理論のコンパクト化の幾何の候補は膨大であり、幾何を選ぶ指針も明らかではない。フレーバー構造と幾何の関係性に迫ったことは有意義であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超弦理論に基づきフェルミオンのフレーバー構造の再現を行うにあたって、まずはシンプルなモデルであるトーラスオービフォールドコンパクト化モデルに焦点を当て、次により複雑な幾何での再現を行う計画を立てた。また、これら様々な幾何での再現研究を通して、フレーバー構造とコンパクト化の幾何の間にある関係性を探ることも目的とした。昨年度は計算が比較的容易であるトーラスオービフォールドコンパクト化モデルでの再現研究を行い、波動関数の零点という幾何に関わる情報とフレーバー構造の再現可能性を結びつけることができた。この点については、研究の進捗は順調であると考えている。計画の通り、今年度は研究の対象をより複雑な幾何に拡張する予定である。 また、フレーバー構造へのもう一つのアプローチとして、モジュラー対称性を持つ低エネルギースケールでのフレーバーモデルの研究も行った。この研究ではフレーバー構造の実験値である質量階層性およびCP位相の破れとモジュラー対称性の破れの関係性を示すことができた。モジュラー対称性はトーラスの幾何学的対称性であるため、別の視点で幾何とフレーバー構造の関係性を結びつけることができたといえる。 このように、2つのアプローチそれぞれでフレーバー構造と幾何の関係性を見出せたことから、研究計画は順調と考える。一方で、今年度の研究対象である複雑な幾何での再現研究は、その計算の困難さから計画にやや遅れが生じる懸念がある。その点も考慮し、研究計画はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
4次元トーラス、6次元トーラスおよびそれらのオービフォールドモデルといった、より複雑な幾何でのフレーバー構造の再現に取り組む。現在までの進捗状況にて記述したとおり、今年度の研究対象である複雑な幾何での再現研究は、計算の困難さから当初想定した以上の時間を要する懸念がある。対応策としてプログラミングの活用による計算の自動化・効率化を目指す予定である。
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