研究課題/領域番号 |
22KJ0101
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補助金の研究課題番号 |
22J20177 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 美優 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | N-ヘテロ環状カルベン / 不斉合成 / 協働触媒 / 金触媒 / 求核付加反応 / ラクトン合成 |
研究開始時の研究の概要 |
優れた触媒の開発は、これまでに実現できなかった分子変換を可能にし、新たな化学空間を切り拓くことができるため医薬品開発や新素材の開発の観点から重要である。とりわけ、自然界に存在する酵素のように優れた触媒の機能を人工的な低分子触媒へと落とし込むことができれば、これまでになかった新たな触媒の開発が期待できる。本研究課題では、特に酵素触媒の高活性の要因である触媒キャビティに着目し、キャビティ構造を導入した錯体触媒の開発を行う。従来法では合成できなかった分子を構築することを目標とし、量子計算化学を用いながら合理的な触媒設計手法を確立する。
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研究実績の概要 |
優れた触媒の開発は、従来達成されていなかった分子変換を可能にし、新たな化学空間を切り拓くことができるため医薬品開発や新素材の開発の観点から重要である。とりわけ、自然界に存在する酵素のように優れた触媒の機能を人工的な低分子触媒へと落とし込むことができれば、天然の触媒が有する機能を超えるような新たな人工触媒の開発が期待できる。本研究では、特に酵素触媒の高活性の要因である反応場を高度に制御する触媒キャビティに着目し、キャビティ構造を導入した錯体触媒の開発を行う。そして本触媒系を用いることで、従来法では合成できなかった分子を構築することを目標とする。 まず、触媒キャビティの設計によって鎖状基質の折りたたみを誘起することで、従来困難であった7員環ラクトン形成が可能になると考えた。鎖状基質の環化による5,6員環ラクトンの形成は反応点同士が近接しているために容易に進行するのに対して、7員環ラクトン合成は基質反応点が遠位に存在しており一般的に困難とされている。また分子間反応が主な副反応として併発し目的物の収率が低下する問題がある。これらの課題に対して、反応点の同時活性化と近接化を行う金―亜鉛異種二核金属錯体を設計し、さらに基質分子を折りたたむようキャビティ構造を導入することで、アルキンカルボン酸を基質とする7員環ラクトンの合成を達成した。反応は自由度が高い直鎖状内部アルキン基質でも進行し、量子化学計算の結果から、独自設計した異種二核錯体は基質と多点で相互作用し、酵素のように緻密な基質認識を行うという知見が得られた。本知見を活かして、キラリティーを導入した新規不斉配位子の設計を行い、現在その合成に着手しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度より取り組んできた異種二核錯体を用いたアルキンカルボン酸を基質とする7員環ラクトンの合成について、高収率で目的物を与える条件を明らかとした。具体的には、弱塩基性配位子を有するヘキサフルオロアセチルアセトナト亜鉛を導入した金―亜鉛錯体が高い活性を示した。得られた最適条件を用いて基質適用範囲の拡張を達成し、従来法では合成困難なさまざまな7員環ラクトンを合成した。従来のアルキンの分子内ヒドロカルボキシ化反応において、基質は高反応性末端アルキンにほぼ限定されており、内部アルキンの反応に関しては、アルキンとカルボキシ基が芳香環で繋がれた配座自由度の低い基質などに限られていた。本触媒系においては金-亜鉛の協働作用によって自由度が高い直鎖状内部アルキン基質でも反応が進行した。量子化学計算による反応機構解析により、NHC配位子の窒素上の置換基が鎖状基質の折りたたみを促進し、低反応性鎖状基質での環化反応を促進していることが示唆された。また、非共有結合相互作用可視化プログラムの利用により、独自設計した異種二核錯体は基質と多点で相互作用し、酵素のように緻密な基質認識を行うという知見が得られた。この結果をまとめた学術論文はChemistry - A European Journal誌に掲載された。本手法の開発により医薬品や天然物として有用な7員環ラクトンの高収率且つ高選択的な合成が可能となった。 これまでの研究で得た触媒設計の知見を基に、触媒キャビティにキラリティーを導入し、不斉反応へと展開を行うべく新たな配位子を設計した。今後、不斉反応への展開が期待される。以上、本研究ではキャビティを持つ触媒の設計により新たな分子変換手法の開発を達成し、さらにその不斉反応への応用にまで着手していることから、研究は「おおむね順調に進展している」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得た知見を基に、触媒キャビティにキラリティーを導入し、不斉反応へと展開を行うべく新たな配位子を設計した。具体的には、堅剛なイミダゾ[1,5-a]ピリジン-3-イリデンへ軸不斉を導入すると同時に、中心金属への供与部位となるアルコキシ基を導入することで不斉反応へと展開する。現在のところ、ブロモナフトールの水酸基部分の保護と続くハロゲン基のホウ素化によりナフチルボロン酸フラグメントを合成し、続くブロモアセタールピリジンとナフチルボロン酸の鈴木カップリングによってナフチルアセタールピリジン構造を合成した。今後は、続くピリジンイミダゾリウム塩形成と光学異性体分離によって望みの軸不斉配位子を得る予定である。配位子の合成が完遂すれば、不斉反応開発へと展開する。所属研究室で開発された銅触媒による不斉共役付加反応でその触媒の活性を評価するとともに、金、ニッケル、パラジウムなどさまざまな中心金属の錯体を合成し、幅広く反応開発を推進する計画である。量子化学計算による反応機構解析に基づいて、配位子の置換基効果や基質との相互作用を見積もることによって、効率的に触媒の設計を行い、合成化学実験と合わせて合理的に反応開発を進める。
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