研究課題/領域番号 |
22KJ0128
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補助金の研究課題番号 |
22J21392 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
星加 恭 北海道大学, 国際感染症学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | プリオン病 / 神経細胞死 / 神経変性 / ATF3 |
研究開始時の研究の概要 |
プリオン病はヒトと動物の致死性の中枢神経変性疾患であり、その神経細胞死のメカニズムは十分に判っていない。 本研究は(1)プリオン病で生じる神経細胞死におけるRegulated Cell Deathの関与、(2)ストレス応答性転写調節因子ATF3の機能、の2つの観点から解析を行う。ATF3は、プリオン感染マウスで、神経細胞が顕著に脱落する視床背外側核において、病態の進行に伴い神経細胞で発現誘導する転写調節因子であり、プリオン病の神経変性機構の重要分子の一つと予測される。これらの研究からプリオン病で生じる神経細胞死の分子機構の一端を明らかにする。
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研究実績の概要 |
プリオン感染マウスの視床背外側において、病気の進行とともに神経細胞の顕著な脱落と、神経細胞におけるストレス応答性転写調節因子ATF3の発現が認められた。この領域の神経細胞はアポトーシスマーカーであるTUNEL反応は陰性である一方、脂質の過酸化の副産物である4HNEの蓄積の増加が認められた。さらにATF3を発現している神経細胞はATF3を発現していない神経細胞と比較して有意に4-HNEの蓄積量が増加していた。加えて、抗酸化物質の一つであるグルタチオン依存性に過酸化脂質を還元する酵素であるGPx4が神経細胞で減少することを認めた。さらに転写調節因子ATF3を発現する神経細胞は、細胞の抗酸化反応の中心的役割を持つグルタチオンを分解するChac1のmRNAを発現することを見出した。これらはフェロトーシスの主要なマーカーであるとされることから、プリオン感染マウスの視床の神経細胞死にフェロトーシスが関与することが示唆された。 一方、病末期のプリオン感染マウスの小脳顆粒細胞層においてTUNEL反応、及び活性化型カスパーゼ3に対する免疫染色に陽性を示す、神経細胞の典型的なアポトーシスが観察された。プリオン病に罹患した動物の中枢神経組織で、異なる神経細胞死機構が進行していることを示している。プリオン病によって引き起こされる神経細胞死に脳領域あるいは神経細胞種特異性が存在することが示唆された。 さらに愛知医科学大学加齢医科学研究所との共同研究により、ヒトのプリオン病であるクロイツフェルトヤコブ病患者の死後脳において、大脳皮質病変スコアが高いほどATF3を発現する神経細胞の数は増加していた。アルツハイマー病患者の海馬、レビー小体病患者の偏桃体においてもATF3陽性の神経細胞を認めた。筆者の所属する研究室が独自に見出したATF3がこれらの難治性神経変性疾患で共通して発現することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プリオン病を含め、難治性神経変性疾患における神経細胞死の分子メカニズムはいまだ不明な点が多く、神経細胞死機構の解明は病態機序の理解に不可欠と考えられる。プリオン感染マウスの視床背外側核の神経細胞死において、脂質の過酸化によって引き起こされるフェロトーシスの誘導と、その病態進行に転写調節因子ATF3が関与する可能性を示した。フェロトーシスやATF3の機能に着目したプリオン病の治療法の開発などに発展する可能性がある。さらに愛知医科学大学加齢医科学研究所との共同研究により、ヒトのプリオン病であるクロイツフェルトヤコブ病(CJD)だけでなく、アルツハイマー病(AD)及びレビー小体病(LBD)の患者の病変形成部位におけるATF3の発現を明らかにした。ADやLBDの病態の進行における転写調節因子ATF3発現は未だ報告されていない。高齢社会が進む現代において、患者の増加が見込まれる難治性神経変性疾患の治療法の開発は急務である。プリオン病の神経変性における転写調節因子ATF3の役割の解明という本研究の発展性を見出し、ADやLBDを含めた難治性神経変性疾患の病態理解に寄与する可能性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
転写調節因子ATF3の神経変性疾患の病態における役割の更なる解明のため、ATF3がその遺伝子発現を制御する遺伝子を明らかにするクロマチン免疫沈降法(ChIP-Seq)の実施を予定している。しかしその精度の保証には1.0×10^6個以上のATF3発現細胞が必要であるため、14日齢のマウス胎児から作成した神経細胞初代培養を化学的に刺激を与え、ATF3を発現させた細胞をサンプルとして用いることを予定しており、その手技の確立と条件検討は完了している。ここで見出した遺伝子群とその代謝産物のプリオン感染マウスの視床での発現を定量PCR、及び免疫組織化学によって確認する。そこから見出した分子とその細胞生物学的機能を追加で解析を行い、プリオン病の病態における役割を明らかにする。 さらに、愛知医科学大学加齢医科学研究所との共同研究を継続し、ChiP-Seqの結果から見出された分子に関して、ヒトのCJD患者の死後脳において解析の実施を予定している。加えて、加齢医科学研究所で保管されるほかの難治性神経変性疾患患者の死後脳サンプルを用いて、転写調節因子ATF3の発現解析と周囲の蓄積タンパク、並びにグリア細胞の解析を行い、転写調節因子ATF3がその病態に関与する疾患を明らかにする。 また現在、プリオン感染マウスの解析においてATF3を発現する神経細胞におけるミトコンドリアの変化を観察している。ミトコンドリアで産生される酸化ストレスがフェロトーシスの原因である膜脂質の過酸化に関与する可能性を検討している。ミトコンドリアの品質管理機構であるミトコンドリア選択的オートファジー(マイトファジー)の解析を並行して実施予定である。
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