研究課題/領域番号 |
22KJ0138
|
補助金の研究課題番号 |
22J22003 (2022)
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
楊 光 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
|
キーワード | 細胞分裂 / 倍数性 / 染色体分配 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞分裂異常による染色体倍加した細胞は大半が死滅する一方、多くの固形がんに観察され、病態への寄与が目される。極少数の倍加細胞が「倍数性逆転」という大規模な染色体喪失現象で異常増殖可能になり、悪性化を引き起こす要因と考えられるが、その発生原理は明らかでない。本研究では、申請者がこれまで構築した低侵襲広視野追跡と高解像三次元撮像を同時実施できる撮像系を駆使し、分裂異常細胞系譜で生じる細胞内制御の変調が長期の倍数性変動や細胞運命に与える影響を定量的に評価し、倍数性逆転を成立させる未知の染色体分配制御メカニズムを解明する。さらにその理解を元に、倍数性逆転による悪性化の人為的抑制の実現性を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本研究では、細胞分裂異常による染色体倍加後に起こる大規模な染色体喪失(倍数性逆転)をはじめとする甚大なゲノム異常を引き起こす染色体分配制御不全の原理解明を目的とした。 前年度、染色体倍加後の2世代目までの細胞分裂の追跡では、多極分裂により多様な倍数性(DNAの総量)をもつ細胞が形成され、倍数性レベルと生存率の正の相関を見出したが、本年度では観察期間を延長したところ、染色体倍加後1週間まで生存できた細胞集団においては、ほぼ一律に、倍数性レベルが4倍体相当に収束していることを発見した。この結果から、染色体倍加後の倍数性変動を一定のパターンに収斂させる「ボトルネック」の段階が存在すること、さらに染色体倍加細胞にとって4倍体から極度に逸脱した核相の長期的な保持が困難であることが示唆された。 次に、これら4倍体化細胞系譜の形成過程を遡及的画像解析により調べると、安定増殖する細胞集団の多くがイレギュラーな多極分裂を少なくとも1回は経ていることが分かった。これは染色体倍加で得られるサブクローン間および内でも染色体構成に不均一性が生じていることを示唆する。染色体倍加サブクローンの不均一性を分子レベルで理解するために、7種のサブクローンをRNA-seqに供し遺伝子制御状態を比較すると、これらには顕著な多様性があることが分かった。さらにウェスタンブロットにより細胞周期、細胞死、オートファジーなどの制御に関わる主要制御因子の発現を15種のサブクローン間で比較すると、細胞周期の主要制御因子はサブクローン間で特徴的な差異が生じており、これを反映した下流因子ネットワークの制御状態の多様化が起こっていることが分かった。これらは、染色体倍加を通したがん不均一化の分子的実態の一端である可能性があるので、その生物学的影響の解析を続けていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の結果から、染色体倍加細胞は多様な染色体量を持つ娘細胞を生じることが分かったが、長期的な細胞運命を決定する因子がまだ明らかでない。 今年度は、染色体倍加後生存できた細胞集団の倍数性は4倍体レベルに収束することを明らかにした。これは計画予想外の結果でもあり、今年度中に論文発表まで至れなかったが、このことは、染色体量が染色体倍加細胞の運命を決める要因である可能性を示唆する知見になり、本テーマにおける重要な前進でもあると評価する。 また、計画当初より望外な展開として、多くの4倍体細胞集団は多極分裂を経過して増殖することから、染色体倍加サブクローン間における不均一性があることを示唆した。そして、細胞周期の主要制御因子の発現レベルがサブクローン間に多様に変化していることが確認された。さらに、その下流因子の制御状態も異なることが明らかにした。これらの結果から、染色体倍加後に生存できた子孫細胞は不均一な細胞性質が生み出され、イレギュラーな多極分裂が染色体分配を撹乱することはその原因の一つである可能性を示唆した。以上の結果は、染色体倍加現象が細胞性質にもたらす影響を理解する上に重要な知見であると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度、私が見つけた染色体倍加サブクローン間における不均一な遺伝子発現変動は、多極分裂によって生じる異数性な核型に影響されたものだと考えられる。この仮説を検証するため、今後の計画として、染色体倍加サブクローンに対して核型解析を行い、特徴的な核型パターンを洗い出す。その後、今年度の遺伝子発現変動パターンとこれらの核型パターンを照り合わせ、両者の関連性を明らかにする。 また、染色体倍加サブクローン間の不均一性の特性を明らかにするには、RNA-seq結果をGene Expression Omnibus(GEO)またはThe Cancer Genome Atlas(TCGA)の先行研究データとの比較解析をし、がん進行や薬剤耐性などの表現型に関わる遺伝子や信号伝達経路などにはじめる、染色体倍加細胞特有な変動傾向を特定する。その後、細胞増殖アッセイなどアプローチを用いて、これらの因子が細胞機能に与える影響を検証評価する。 以上の解析により、染色体倍加細胞における染色体分配制御不全が細胞性質を変化させる分子メカニズムを突き止める。
|