研究課題
特別研究員奨励費
植物では種子形成のため、雌しべに花粉がつく受粉の段階で、花粉から花粉管が発芽し、伸長することで雌しべ内へ侵入する。花粉管が正しく発芽、伸長するためには花粉が雌しべの柱頭上で吸水し、適切な膨圧を維持する必要があるが、そのために花粉と雌しべ乳頭細胞といった雌雄の細胞間にはどのような相互作用が存在しているのか、その分子機構は明らかではない。本研究では、雌雄細胞間でのイオンや水のやりとりに着目し、膨圧調節研究のモデル細胞である気孔孔辺細胞で得られた知見をヒントとして、アブラナ科植物を用いた受粉時の花粉の膨圧調節メカニズムを明らかにし、最終的には自家不和合性反応における花粉吸水阻害機構の解明も目指す。
受粉時、花粉は雌しべ柱頭に存在する乳頭細胞から水を受け取り吸水する。花粉吸水は花粉管発芽と伸長に必須であるため、植物が受精を達成し、次世代を残すために重要である。乳頭細胞上に付着した花粉は種間不和合性や種内不和合性により、受精可能な花粉が選択されたのち吸水させる。吸水可能な花粉を乳頭細胞が認識する自他認識機構から、その下流で花粉吸水を誘導する乳頭細胞内のシグナル伝達は理解されつつあるが、未だどのように乳頭細胞内の水が花粉へと移行するのか、吸水がされない花粉ではどのように水の移行が止まるのか、といったシグナル伝達末端の理解は進んでいない。申請者は、植物細胞の膨圧制御が花粉吸水に関与すると仮説を立て、膨圧制御に重要なイオン輸送体が花粉吸水時に機能しているかを調べた。本申請研究では、乳頭細胞で機能するイオン輸送体の候補を、シロイヌナズナの発現データベースから乳頭細胞で高い発現を示す遺伝子の選抜と、自家不和合性に影響を与える化合物スクリーニングから、合計19遺伝子見出した。最終年度は、その候補遺伝子のうち1遺伝子の遺伝子破壊株の雌しべを用い、野生株花粉の受粉直後からの花粉吸水速度と、雌しべ内での花粉管の伸長を調べ、野生株雌しべと比較した。変異体雌しべでは、花粉吸水には野生株と変化は見られなかったが、雌しべ内での花粉管伸長速度の低下が観察された。これらの結果から、この輸送体は受粉過程での花粉吸水には関与しないが、雌しべ内での花粉管伸長に重要であることが示唆された。本研究により、受粉後の花粉管伸長にも雌しべ側のイオン輸送による浸透圧制御が関与している可能性が示唆された。
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