研究課題/領域番号 |
22KJ0166
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補助金の研究課題番号 |
21J20154 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂尾 珠和 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2021年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
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キーワード | 実験核物理 / ストレンジネス核物理 / 散乱微分断面積 / スピン観測量 / ハイペロン / J-PARC / ラムダ粒子 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、J-PARCにて実施予定の次世代Λp散乱実験準備として解析ソフトウェア開発・物理量観測のfeasibility検証を行うとともに、素粒子・核物理実験分野で広く汎用的に共用できる高速DAQシステムの開発に向けた基礎研究を行う。 (1)解析ソフトウェア開発・物理量観測のfeasibility検証では、次世代実験の環境を反映したシミュレーション・サンプルデータを用いて開発を進め、世界的に類をみない粒子同定手法を実装することで、高精度高統計のデータ取得を目指す。 (2)高速DAQシステムの開発では、KEK・RCNP等と連携して国産汎用ASICの開発、その評価・実用基板の開発を推進する。
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研究実績の概要 |
我々は、核子(陽子・中性子)の間に働き、原子核を形成する力(核力)の性質を研究している。核力は近距離(1 fm)で強い斥力、遠距離では引力となり、両者が均衡を保つことで原子核は存在するが、その詳細なメカニズムは未だ解明されていない。原子核物理学において、核力研究は物質起源の理解に繋がりうる重要な学術領域である。 我々は、大強度陽子加速器施設(J-PARC)にて、ハイペロン(sクォークを含むバリイオン)と核子の間に働く相互作用を調べる実験を行なっている。まずハイペロン核子(YN)散乱実験で2体力を精密決定し、その情報を反映した多体系モデルの計算結果とハイパー核実験で測定する多体力を比較することで、sクォークを含んだ系でのバリオン間相互作用の統合的な理解に貢献する。 u, dクォークのみのSU(2)空間だけでなく、sクォークを含めたSU(3)フレーバー対称空間へ拡張することで、SU(2)空間では研究できない相互作用チャンネルが開かれる為、新たな物理知見を得る足掛りとなる。また、内部にハイペロンを含むとされる超高密度な星(中性子星など)の起源を理解するには、ハイペロン核子核子 (YNN) 多体力の研究が必須であり、その決定には精密なYN2体力の情報が不可欠である。 本研究では、YN相互作用の中でもラムダ陽子(Λp)チャンネルを取り扱っている。Λ粒子は寿命が2.6×10^(-10)秒程度と非常に短く、生成してもすぐ崩壊してしまう為、実験技術的に散乱実験を行うことが難しいとされ、微分断面積データなどが不足していた。我々は、J-PARCにおける新たな次世代Λp散乱実験手法を確立し、微分断面積・スピン観測量測定を行い、バリオン間相互作用モデルへ新たな情報を提示したい。現在、本実験の基礎研究としてΛp散乱微分断面積・Λビームスピン観測量測定手法の研究開発・feasibility検証を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では、大強度陽子加速器施設(J-PARC)で計画されている次世代ハイペロン核子(ラムダ陽子、Λp)散乱実験に向けた基礎研究として、本実験で測定予定のΛp散乱スピン観測量(偏極度・減偏極度など)のfeasibility検証を行った。また別の研究テーマとして、素粒子・核物理実験分野で汎用的に共用可能な、MPPC読み出し汎用ASIC開発プロジェクトに参画し、ASIC試作機用評価基板の開発を行った。 前者では、本実験で用いるπ-p→K0Λ反応由来のΛビームが、ほぼ100%の偏極度を持つことを確認し、本実験と近い検出器セットアップを反映したΛビーム偏極度解析手法の実装を行なった。これにより、世界初の運動量領域(400 - 800MeV/c)でΛp散乱のスピン観測量測定が実現可能であることを証明した点が重要である。ハドロン物理学では、実験技術的困難さゆえ、歴史的にハイペロン核子散乱実験の高統計高精度測定データは未だ不足しており、相互作用のスピン依存項に関する情報は非常に限られている。本実験でΛp散乱スピン観測量の測定に成功すれば、統合的なバリオン間相互作用モデルの構築の一助となりうる。 後者では、J-PARC(ハドロン・T2K・COMET)・大阪大学RCNP・KEKが主導するMPPC読み出し汎用ASICの基板開発プロジェクトにおいて、国産MPPC読み出し汎用ASIC(YAENAMI)の試作機評価用基板(RAYRAW)の回路設計・PCBデザインを完了した。これにより、RAYRAWのFPGA制御・ASICレジスタ制御用ファームウェアの開発へ進むことが可能となった。将来的にはYAENAMI・RAYRAWのビームレート耐性・放射線環境下でのフォトカウンティング性能等を評価し、改良版の開発の要否などの検討に役立てる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
J-PARC E40実験で取得されたπ-p→K0Λ反応データを解析し、当該反応由来のΛビームの偏極度測定結果の誤差評価の最終調整を行う。また、同データ解析でΛp散乱微分断面積を再解析し、将来実験で行われるΛp散乱微分断面積測定の基礎データとしたい。 YAENAMI ASIC開発プロジェクトでは、2022年度に回路設計・PCBデザインを完了したRAYRAWのファームウェア・ソフトウェア開発を本学と京都大学で進め、2023年度内にはRAYRAWのビーム試験を国内実験施設で行いたい。 本研究で得られた成果・開発状況は、随時、関連する研究会・学会などで報告する。
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