研究課題
特別研究員奨励費
本研究は自己細胞を用いて移植可能な再生肺をつくることを目指している。肺の再生には足場と細胞の二つが必要である。まず、iPS細胞へ至る中間まで成体由来の細胞を部分的に初期化することで、肺固有の分化系統を保ったまま増殖能を持つ細胞を作成する。続いて足場となる脱細胞化肺(正常な肺胞構造を保ったまま細胞だけを取り除いた肺)にその細胞を注入することによって再生肺の作成を行う。
今までにマウス肺の再血管化の例がなかったため、まずマウス肺の脱細胞化・再血管化手法の確立を行った。マウス肺動脈・気管にカニュレーションして脱細胞化し、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)を肺動脈から注入した。バイオリアクターを用いて還流培養を行ったところ、マウス肺血管内皮細胞数の半数である3000万個が最もよく生着していた。マウスを用いることで実験に必要な細胞数がラットの10分の1程度なることは利点と考えられた。続いて山中因子を体細胞に一時的に導入し、多能性に至る前に止めることで、元の細胞の特性を備えたまま増殖する誘導性前駆細胞作成のプロトコル確立を行った。ゲノム挿入の危険性がない点・効率を考慮し、血管内皮細胞・肺上皮細胞それぞれにmRNAを用いた誘導を行った。 血管内皮細胞としてはHUVECを用いた。iPS細胞作成の半分・1/4・1/8の期間の初期化誘導を試したところ、半分の期間の誘導で血管内皮細胞の特徴を持ちながらも増殖する細胞が得られた。より短い期間の誘導では、細胞は幼若化すると考えられたものの増殖はしなかった。そこで増殖した細胞を誘導性血管内皮細胞となった可能性があると考え、作成したバイオリアクターを用いてマウス脱細胞化肺に注入し、再血管化した。一部の細胞に生着が認められ、免疫染色ではCD31に加えてSMAの発現が見られた。その細胞からは血管内皮細胞の他に壁細胞も分化している可能性が示された。今後は脱細胞化肺への生着能の改善が課題と考えており、使用する培地について検討を行っている。上皮細胞の部分的初期化に関してはSAEC(ヒト小気道上皮細胞)に初期化因子のmRNAを導入した。血管内皮細胞と同様のトランスフェクションを行ったところ幹細胞様のコロニーが出現し、長期に継代することができた。特徴の検索とプロトコルの最適化は今後検討していく予定である。
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Scientific Reports
巻: 14 号: 1
10.1038/s41598-024-57084-0
https://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/news/19092/
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/04/press20240405-02-mouse.html