研究課題/領域番号 |
22KJ0213
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補助金の研究課題番号 |
22J01133 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
板井 駿 東北大学, 医工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 人工腸 / 腸内細菌 / iPS / 共生培養 / 電気分解 / 陰窩構造 / 人工腸モデル / 血管新生 / 気泡形成 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、容易に灌流可能なチューブ状人工組織モデルを利用し、世界に先駆けた腸内細菌共生人工腸モデルを構築する。まず、血管新生時の細胞によるゲルの掘削を利用することで、人工的には作製が難しかった3次元の腸の陰窩構造を形成する。その後、多重チューブ内に腸組織とリンパ組織・血管組織の共培養を行い腸モデルを形成する。 細胞の状態については免疫染色やRNA-seq等で評価を行い、血管からの回収物質についても細菌由来産生物の解析等を行う。これらの解析から組織の維持能および生体模倣性を高めるための条件検討を行い、人工腸モデルの病理解明、治療薬開発への有用性を評価する。
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研究実績の概要 |
昨年度は、電気分解由来の気泡を用いて陰窩様凹凸内壁を持ったコラーゲンチューブの構築およびヒト結腸癌由来細胞(Caco-2)を用いた腸上皮層の形成を達成していた。本年度はこの人工腸チューブ用いて、細菌との共培養のための粘液層構築およびiPSへの適用実験を行った。 腸上皮細胞と腸内細菌の共培養を達成するためには、腸上皮細胞から産生される粘液層(ムチン層)の形成が重要である。そこで本年は、従来使用していた吸収上皮細胞へ分化する Caco-2細胞(吸収機能)に加え、杯細胞へ分化するHT29細胞(ムチン層形成)という二種類の腸上皮細胞の共培養するシステムの確立を行った。細胞や培地の比率を調整した結果、ムチン層の形成が確認され、細菌との共培養後にムチン層の保護により細胞が生存していることも確認した。現在さらに詳細なムチン層の確認のため、組織切片の解析を行なっている最中である。 iPS腸管上皮細胞を用いてのモデル形成についても並行して開始しており、チューブ内へのiPS腸上皮層の形成に成功した。一方でiPSは株化細胞と異なり上皮層形成のための培養条件の制御が難しく、現在最適条件の検討を行なっている。 また、腸と共培養される血管組織については、iPS由来血管内皮細胞、平滑筋細胞を用いた自在に変形可能な血管モデルの確立を行い、血圧制御に関わる生理活性物質による収縮反応を実現した。さらに患者由来iPS細胞を用いてモデルを作製した結果、病態表現型の顕著な発現に成功しており、病態モデルとしての有用性も示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は上記のように、吸収上皮細胞へ分化する Caco-2細胞(吸収機能)に加え、杯細胞へ分化するHT29細胞(ムチン層形成)という二種類の腸上皮細胞を共培養するシステムの確立を行い、ムチン層の形成や、細菌との共培養後にムチン層の保護により細胞が生存していることを確認した。今後さらに詳細なムチン層の形態や形成条件の評価を行うが、これは長期共生培養に向けた大きな成果と言える。 また、iPS腸管上皮細胞を用いてのモデル形成についても並行して開始しており、チューブ内へのiPS腸上皮層の形成に成功した。杯細胞やパネート細胞なども含めた陰窩構造に沿った分化制御に向け培養の最適条件の検討に現在入っている段階であり、iPSでの共培養環境構築への準備も着実に進んでいる。 また、腸と共培養される血管組織については、iPS由来血管内皮細胞、平滑筋細胞を用いた自在に変形可能な血管モデルの確立を行い、血圧制御に関わる生理活性物質による収縮反応を実現した。さらに患者由来iPS細胞を用いてモデルを作製した結果、病態表現型の顕著な発現に成功しており、病態モデルとしての有用性も示唆されている。ここまで生理学性の高い組織を実現できていることは非常に大きな進捗と言える。 加えて、電気分解を用いた人工腸チューブの作製手法に関しては既にBiofabrication誌に投稿し現在リバイズ中である。また、血管組織についても現在論文化中である。 以上のように2023年は大きな進捗および成果の得られた年であり、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず腸上皮組織との共培養の安定化・長期化に向けた、ムチン層やIgA抗体(腸組織と腸内細菌の間のバリアとして共生バランスを保つ)の産生条件検討を行う。この際、免疫染色や切片評価、ELISA法等を用いた抗体量評価等を行うことで共生可能な環境の形成を確認する。 そして並行してiPS由来腸管上皮の分化条件の検討も行い、iPS由来組織についても同様にバリア機能などの共生環境に向けた評価を行い。さらに血管網と腸組織の共培養に向け、チューブを束ねた多重チューブデバイスの開発も行う。そして多重チューブデバイス内に腸組織・リンパ組織・血管組織すべてが統合された人工腸モデルを構築する。達成後、実際に腸内細菌を腸内部に封入し組織と細菌の共生培養を実現する。そして細胞の状態については免疫染色等で評価を行い、血管からの回収物質についても細菌由来産生物の解析等を行う。これらの解析から組織の維持能および生体模倣性を高めるための条件検討を行い、人工腸モデルの病理解明、治療薬開発への有用性を評価する。
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