研究課題/領域番号 |
22KJ0251
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補助金の研究課題番号 |
22J12531 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分19010:流体工学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊神 翼 東北大学, 流体科学研究所, 助教
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,700千円 (直接経費: 1,700千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 流体計測 / 感温塗料 / 非定常流れ場 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,感温塗料(TSP)と呼ばれる温度を光学的に計測できる技術を使って運動する物体周りの非定常流体現象を計測する新手法を確立し,回転翼の表面流れ場の解明を目指す.まずは,導電性を持つポリマを用いた内部発熱型の高速応答TSP(以降,導電性ポリマ型 TSP)を開発する.本研究では,このポリマを導電性にして,TSP自身に加熱機能を付加することで,周波数特性の飛躍的な向上が期待できる.良い周波数特性を持つ計測手法を確立することで,回転翼のような運動する物体まわりの非定常な流体現象の評価手法に用いることが可能となる.
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研究実績の概要 |
感温塗料(Temperature-Sensitive Paint, TSP)を用いて運動する物体周りの非定常流体現象を計測する新手法を確立し,回転翼ブレードの表面流れ場の解明することを目指し研究を実施した.本年度は,まずカーボンナノチューブ(Carbon NanoTube, CNT)の薄膜加熱層とTSPを組み合わせた流体計測技術であるカーボンナノチューブ感温塗料(Carbon NanoTube Temperature-Sensitive Paint, cntTSP)について,その開発および評価を行なった.具体的な研究内容は以下の2つである. 1つ目は,昨年度までに開発した低速流れでの非定常計測用cntTSPに対してその周波数特性を評価し,改善する方法について調査した.ここでは,まず低速における cntTSP 計測の周波数特性の実験的な評価手法を確立した.さらに,構築した周波数特性評価手法に基づいて,1 次元非定常熱伝導の数値モデルを作成し,cntTSPの各パラメータが周波数特性に与える影響を調査した.これらの成果は,cntTSP 計測の定量的な周波数特性を把握する手法を確立し,それが向上する指針を得ており,非定常cntTSP計測を行うために重要な知見となる.また,ここでの研究成果を纏め,学術論文誌に掲載された. 2つ目は,cntTSP を回転翼ブレード上の流れ場計測に用いることで開発したcntTSPの有用性を実証した.ここでは,回転数500 rpm,翼端速度 7.2 m/sという低速条件において,定常流れであるホバリング状態と非定常性を伴う前進飛行状態のロータでそれぞれブレード表面流れを可視化し,その流れ場を議論した.これらの結果は,低速における運動する物体の非定常流れ場の計測技術として,ここまでの研究で開発したcntTSP が有用であることを示すものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,提案する計測手法の周波数特性の定量的な評価方法の確立と回転翼へ提案手法を提要するための実験系の確立に注力した.まず,周波数特性の定量評価では,周波数に対する温度変動の振幅は両対数グラフにおいて線形的に減少することを明らかにした.さらに,追加の考察を行うために数値モデルでの検証を行い,TSP 層の熱容量を小さくする,また基板の熱拡散率を大きくすることで周波数特性が向上することを明らかにした.また,回転翼への適用では,ホバリング状態では,高ピッチ角において,ブレード全体に前縁剥離渦に対応した温度分布が形成されていることを明らかにした.さらに前進飛行状態では,ブレードの 1 回転に同期した温度場の変化を計測することに成功し,前進飛行によって有効迎角が周期的に変化して前縁剥離渦の強度と規模が変化することを見出した.これらの評価および検証は,従来法であるcntTSP計測技術を用いた結果であるが,本年度の研究において,計測技術の評価手法と実現象への適用手法は確立することができた. 残る課題は,提案手法である導電性ポリマ型TSPの開発である.すでに開発する新手法の評価方法は確立できていることから,次年度はTSPの開発に注力することができる.以上より,初年度において本提案のおよそ半数の研究課題について進展することができたことから,おおむね順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,残された研究課題である導電性ポリマを用いた新たな内部発熱型TSP(以降,導電性ポリマ型TSP)の開発に取り組む予定である.cntTSPは温度センサの機能を持つ色素分子とそれを模型表面に凝着させるポリマ,CNT 薄膜による加熱層から成る.一方,提案する導電性ポリマ型TSPでは,ポリマを導電性にして,CNT 層を排し,TSP 層に加熱機能を付加する.これにより,層全体を薄膜化し熱容量を大幅に削減できるため,周波数特性の向上が期待できる.次年度は,まずTSPに適した導電性ポリマの選定および調合の最適化を行う.また,これまでの予備的な調査から導電性ポリマでは透明度が十分ではなく,TSPの発光を吸収してしまう可能性が考えられる.そこで,金属ナノ粒子をTSP層に添加させることで導電性を付与するというアプローチについても並行して検討を行う計画である.さらに,本年度構築した周波数特性評価手法を用いて,導電性ポリマ型TSPの周波数特性を評価し,従来型のcntTSPと比較する予定である.また,開発した新手法を特許出願を目指している.学術論文や学会発表へのタイミングを見極めつつ,特許出願への準備を進めていく.
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