研究課題
特別研究員奨励費
地球内部の8割を占める分厚い岩体はマントルと呼ばれ、水飴のようにゆっくりと対流する。地表に豊富に存在する水は含水鉱物としてその対流に巻き込まれ、大規模な水循環が起きていると考えられている。含水鉱物の一つである鉄水酸化物ε-FeOOHは、高圧力を加えると複数の相転移が起きるため、地球内部の深さ(圧力条件)によって振る舞い(物性)が大きく変化する。本研究では高圧力実験に様々な測定手法を組み合わせ、ε-FeOOHの物性の圧力変化を調べることを目的としている。
地表の天然環境に存在する鉄は酸化され、酸化鉄や水酸化鉄、オキシ水酸化鉄といった形態で遍在する。このうちオキシ水酸化鉄FeOOHは、OH基の形態で水を含む含水鉱物である。特に5番目の結晶構造を持つε-FeOOHは、地球内部の高圧力環境においても安定に存在できる可能性があり、水循環を担う鉱物の候補として注目されている。加えて、高圧力によって水素結合対称化と鉄電子スピン転移の2つの相転移を起こし、振る舞い(物性)が大きく変化することが予測ないし観測されている。高圧力が引き起こす鉱物の物性変化の解明は、地球内部ダイナミクスの理解に繋がるのみならず、物質科学的にも興味深いが、ε-FeOOHは相転移機構の理解が不十分であった。そこで本研究では、ε-FeOOHに圧力を加え、相転移をまたいで圧力を変化させた際の物性の変化を実験的に調べた。まず、45万気圧で起きる鉄電子スピン転移の観測を目指し、X線非弾性散乱の測定による縦波の弾性波速度の決定と、メスバウアー吸収の測定を行った。縦波速度は相転移付近の圧力で試料が圧縮されやすくなることを示唆し、メスバウアースペクトルは相転移に伴う磁性の変化を示した。加えて、メスバウアースペクトルから、相転移の存在が報告されていなかった8万気圧において、磁気モーメントの向きの変化する磁気相転移が示唆された。この発見を受け、磁気相転移機構の解明に目標を設定し、中性子回折実験を行った。これは18万気圧で予測されている水素結合対称化の観測にも適する手法である。結果の解析により、8万気圧において磁気モーメントの配列が新たな秩序を持つことが判明し、また18万気圧で水素結合が対称化することが確認された。本研究で得られた結果は、マントル鉱物の磁性や圧縮特性、また磁性と水素結合の関係性に示唆を与える。
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