研究実績の概要 |
太陽高エネルギー粒子(SEP)が惑星大気に降り込んだ際の大気組成の変化については、これまで地球の大気を除いてほとんど理解されてこなかった。本研究は、太陽高エネルギー粒子(SEP)の降り込みが現在および過去の火星大気組成に与える影響について、数値シミュレーション(SEP輸送モデルPTRIPと汎用光化学モデルPROTEUS(Nakamura, Y., Terada, N. et al., 2023, EPSP))を用いて解明することを目的としている。 SEPが火星大気に降り込んだ際に駆動される反応系について、大気電離からクラスターイオン反応、中性化学反応に至るまでの503個の反応を網羅的にPROTEUSに実装し、PTRIPと組み合わせて現在の火星大気にSEPが降り込んだ際の大気組成の変動を見積もった。その結果、SEPイベント時にHOx密度が増大し、その結果オゾン密度が減少する可能性を初めて示唆した。年に1回の頻度で発生するSEPイベントがオゾン密度を75%減少させる可能性があり、これは火星周回探査機TGOに搭載されている分光器NOMADによる観測で検出可能であることが示唆された(Nakamura, Y., Leblanc, F. et al., 2023, JGR)。 また、約40億年前の初期火星大気におけるSEPの影響についても研究を拡張した。太陽活動が現在より活発でSEPイベントが持続的に発生していた40億年前の火星大気において、SEPによる大気電離が引き起こす水分子の解離率が太陽紫外線による光解離率を凌駕した可能性があることを示唆した。SEPによる水分子解離か生じるHOxが、初期火星大気中の一酸化炭素と水素分子の密度に1-2桁程度の変動をもたらす可能性があることを示唆した。この研究成果について、国際学術誌への投稿準備を進めている。
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