研究課題/領域番号 |
22KJ0296
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補助金の研究課題番号 |
22J20818 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分59020:スポーツ科学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
徐 芸丹 東北大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | ヒストンラクチル化 / 乳酸 / ヒストン修飾 / 胎児脳発達 / 神経代謝 / 神経分化 |
研究開始時の研究の概要 |
乳酸が神経細胞分化へ与える影響を解析するために、今年度はin vitroでの解析を中心に行った。まずヒト神経芽細胞株SH-SY5Yおよびマウス神経細胞株Neuro2Aを分化誘導する際に30mM乳酸を加えると、神経細胞分化マーカーの発現と神経細胞突起の伸長率が増加した。次に乳酸結合性タンパク質であるNDRG3ノックダウンで発現が低下する遺伝子群のパスウェイ解析を行って、神経分化に関わる経路に該当することを見出した。同様に抽出した発現変動遺伝子群から転写因子群をピックアップし、分化誘導とNDRG3ノックダウンにおける機能解析を行って、乳酸-NDRG3シグナル調節性の新規転写因子を同定した。
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研究実績の概要 |
乳酸が神経細胞分化へ与える影響を解析するために、今年度はin vitroでの解析を中心に行った。まずヒト神経芽細胞株SH-SY5Yおよびマウス神経細胞株Neuro2Aを分化誘導する際に30mM乳酸を加えると、神経細胞分化マーカーの発現と神経細胞突起の伸長率が増加することを見出した。次に乳酸結合性タンパク質であるNDRG3に役割に着目し、乳酸刺激で発現が上昇し且つNDRG3ノックダウンで発現が低下する遺伝子群のパスウェイ解析を行ったところ、約25%が神経分化に関わる経路に該当することを見出した。同様に抽出した発現変動遺伝子群から転写因子群をピックアップし、分化誘導とNDRG3ノックダウンにおける機能解析を行うことで、乳酸-NDRG3シグナル調節性の新規転写因子としてTEAD1とELF4を同定した。昨年6月にこれらの成果は国際学術誌Journal of Biological Chemistryに発表されている。また次に未分化な人神経細胞SH-SY5Y、マウス神経細胞Neuro2Aおよびマウス胎仔脳由来の初代神経細胞を30mM乳酸で24時間刺激し、RNA-seqで発現変動遺伝子を検出し、乳酸刺激を受けた両細胞で共通して発現上昇する「乳酸応答性遺伝子群」をリストアップした。現在、マウス胎仔脳由来の初代神経細胞における乳酸応答性遺伝子の解析も進めており、乳酸が神経細胞に与える影響を明らかにするための包括的な情報整備が順調に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動時の骨格筋から放出される乳酸はシグナル分子として中枢や末梢の神経細胞に働きかけて、運動のもつ精神・神経作用に影響することが示唆される。そこで本研究では、乳酸が神経細胞の分化と機能に与える影響を、乳酸誘導性シグナルを統合的に解析することで、乳酸の神経系への作用メカニズムを明らかにするために、乳酸の神経細胞分化段階における影響の評価、神経細胞における乳酸の細胞内移行経路の解析、乳酸特異的受容体マウス脳発生・発育段階における乳酸レベルと神経機能の行動学的・免疫組織学的解析の6点を組み合わせることで、乳酸誘導性シグナルが神経細胞分化に果たす機能を包括的に明らかにする。
これまでの実験で、神経細胞は乳酸誘導性のシグナル経路(NDRG3, ヒストンラクチル化)に応答性を持ち、乳酸は神経細胞初期分化を促進することが分かった。乳酸の神経細胞分化段階における影響の評価、神経細胞における乳酸の細胞内移行経路の解析、GPR81の神経細胞分化における機能解析に関する研究内容は2023年6月にJournal of Biological Chemistryへ投稿した。(https://doi.org/10.1016/j.jbc.2023.104802)
この後、神経細胞におけるヒストンラクチル化の機能的アノテーションについて深く研究した。現時点で、神経細胞におけるヒストンラクチル化の機能的アノテーション及びマウス脳発生・発育段階における乳酸レベルと神経機能の行動学的・免疫組織学的解析を中心に研究を進んでいる。マウス脳発生・発育段階における乳酸誘導性のシグナル経路を明らかにする。研究スケジュールは当初の予想通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1.神経細胞におけるヒストンラクチル化の機能的アノテーション:予備実験にて、乳酸刺激したSH-SY5Y細胞をそこで全ラクチル化のスクリーニングを行った後、最も誘導が大きいラクチル化をターゲットとしたChIP-seqを行い、ゲノム上のどの位置でラクチル化が起こっているかを同定する。 2.マウス脳発生・発育段階における乳酸レベルの解析:乳酸は容易に代謝される中間体であるため、これまでの研究では、ラクチル化レベルが細胞内の乳酸レベルと高度に相関していることが示される。 したがって、妊娠10日から出生後2日までの胎児の脳の発達中に脳組織のラクチル化レベルを継続的にモニタリングする。 この時点は、乳酸がニューロンおよび脳機能の遺伝子発現を調節する重要な時期である。 3.マウス脳発生・発育段階における乳酸制御する遺伝子発現調節機構の解明:母マウスが妊娠12日目から出産まで毎日2 g/kgの乳酸塩を注射された後、E16.5胎仔マウスの脳でラクチル化レベルが有意に増加した。そこで最も誘導が大きいラクチル化を同定した。E16.5で発現が増加する特定のラクチル化部位がマウス胎児脳に及ぼすゲノム影響をさらに明らかにするために、CUT&TAGまたはCUT&RUN実験技術を行う予定である。 4.マウス脳発生・発育段階における乳酸レベルと神経機能の行動学的・免疫組織学的解析:コントロール群及び乳酸注射群の胎児を使って行動解析(オープンフィールドテスト、高架式十字迷路、モリス水迷路)を行う予定。また解析後は脳を既出し、組織学的評価による神経新生と神経分化解析、ヒストンラクチル化解析を行い、幼若期における乳酸レベルの多寡による神経細胞分化への影響が、マウスの神経学的行動に影響するか検討する。
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