研究課題
特別研究員奨励費
現在の火星は、平均気温-70℃という寒く乾燥し、薄い大気(地球の約1%)に覆われている。約40億年前に遡ると、初期の火星には地球のような液体の海が存在する温暖な環境が存在したと考えられている。そのため、初期火星における生命存在可能性も盛んに議論されてきた。当時の火星大気組成は現在の火星に残されている地質的証拠から推測はされているものの、まだ詳細に解明されていない。そこで本研究では、初期火星における生命の存在可能性を探るべく、数値シミュレーションを用いて過去の火星大気組成を明らかにし、アミノ酸や糖の生成に重要となるホルムアルデヒドなどの生命関連分子の生成量を推定する。
本年度は、まず昨年度から進めてきた初期火星におけるホルムアルデヒドの生成量推定についてまとめ、国際学術誌Scientific Reports(Koyama+2024)に発表した。その後、この研究をさらに発展させ、生成されたホルムアルデヒド中の炭素同位体比を調べた。これまで開発してきた初期火星の1次元大気光学モデルに炭素同位体である13Cを追加し、二酸化炭素が紫外線によって光解離する際に起こる同位体分別効果も導入した。また、これまで大気の温度を固定していたものを大気の進化と共に温度も更新しながら火星の大気進化を計算できるように改良した。この改良によって、従来の研究では不明瞭であった初期火星における二酸化炭素と一酸化炭素の大気進化について、より詳細な描像を明らかにすることが可能となった。本モデルを用いて、約30-40億年前の火星大気進化過程におけるホルムアルデヒド中の炭素同位体比の変遷を推定した。結果として、大気中で生成されたホルムアルデヒドの炭素同位体比は進化の過程で幅広い値を取り、温暖な気候では重い炭素(13C)に枯渇した値を取ることを明らかにした。この結果はNASAの火星探査機キュリオシティーが観測した炭素同位体比の値と照らし合わせると、大気中で生成されたホルムアルデヒドが火星地表面で見つかっている有機物の起源である可能性を示唆している。本成果は、広島で開催された日本惑星科学会秋季講演会で発表された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、初期火星における炭素同位体比の進化を計算し、それをこれまでの火星探査のデータと照らし合わせて、火星表面に存在する有機物の起源について重要な示唆を与えることができたため。
今後は、以下の2点を推進していく予定である。1)本モデルとGCMを組み合わせることで全球におけるホルムアルデヒドの生成量を見積もり、生命関連分子の濃集する可能性の高い場所を推定する。2)酸化剤の供給については、計画していた窒素酸化物ではなく、塩素を含む酸化物に焦点を当てて研究を進める。そのために、まず火星における塩素循環を明らかにすることを目標に塩素を含む光化学モデルの開発を進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Scientific Reports
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