研究課題/領域番号 |
22KJ0316
|
補助金の研究課題番号 |
22J22779 (2022)
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分48020:生理学関連
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
柳下 晴也 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,400千円 (直接経費: 3,400千円)
2024年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2023年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2022年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
|
キーワード | 海馬 / 記憶 / 単一細胞遺伝子発現解析 / 電気生理学 / SWR |
研究開始時の研究の概要 |
脳の領域の1つである海馬は動物の空間記憶を担い、適切な行動を実行するために重要な領域である。海馬には場所や時間などを表現する様々な細胞が存在し、これが特徴的なパターンをもって活動することが空間記憶に重要である。しかし、こうした多様な細胞の性質が分子生物学的にどのようなメカニズムをもつかは未解明である。本研究では新たにin vivo生理計測を適用した神経細胞を可視化、回収する技術を確立し、神経細胞の生理計測法と遺伝子発現プロファイル解析法を融合した新規の手法(Spike-seq法)を開発する。これにより、動物の空間記憶を担う海馬神経細胞の分子基盤を明らかとし、記憶や空間認知メカニズムを解明する。
|
研究実績の概要 |
本年度は、In vivo条件で発火活動を記録した神経細胞を網羅的に遺伝子発現解析する手法(Spike-seq法)の立ち上げを行った。実験法の概要は以下の通りである。まず、In vivo条件でガラス微小電極を用い、単一神経細胞の発火活動を記録する。最大で2時間記録したのち、記録電極から最適化した条件の電気パルスを印加することで、記録した細胞のみを蛍光標識する。直後に記録脳領域の急性切片を作成し蛍光顕微鏡で観察することで記録細胞を同定する。同定した細胞はガラスピペットを用いて顕微鏡下で回収し、単一細胞RNAシーケンス法により網羅的に遺伝子発現解析を行う。以上の実験法の各条件を検討することで、本手法の確立に成功した。さらに条件検討を進め、当初10%以下であった成功率を40%程度まで改善し、スループットを向上した。 本手法を用いて、ウレタン麻酔下の背側海馬を標的とし、脳波と発火活動を同時に記録した48細胞を回収した。本サンプルについて、記憶に関連する海馬特有の脳波として知られているSharp Wave Ripple (SWR)に着目した解析を実施した。記録した神経細胞がSWR発生中にどのしやすいかを解析したところ、海馬に存在する神経細胞であってもその程度は非常にばらつきが存在することを見出した。今後はこれらの発火しやすさの違いと関連する遺伝子を遺伝子発現解析により探索する。さらに、候補となる遺伝子を免疫染色法やウイルスを用いて操作することで、記憶やSWRにおける役割を検証する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、本年度の前半でSpike-seq法の立ち上げと最適化を行い、後半で本手法を用いた実験を開始することを目標としていた。 Spike-seq法の立ち上げは予定よりも難航し、特に実験条件の最適化を見出すのが困難であった。一方、Spike-seq法の立ち上げ後の計画は非常に順調に進展した。本手法を用いた神経細胞の記録および遺伝子発現解析については、約50細胞程度を次年度前半にかけて行う予定であったが、すでに48細胞の記録・回収を完了している。 Spike-seq法のスループットを想定よりも向上させることができたため、現在追加の実験条件でも細胞の記録回収を進めている。 以上より、現在までの進捗においてはおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは、本年度にSpike-seq法を用いて得ることができた海馬神経細胞の脳波-発火活動および遺伝子発現プロファイルの解析を行う。脳波-発火活動の解析では、記憶に関連する脳波として知られているSWRと発火活動の関連をさらに詳細に解析する。SWRと各細胞の発火活動はこれまで非常に多く研究されており、個体の行動や記憶における役割が報告されている。こうした先行研究をふまえ、記録回収した48細胞についてその特徴を記述する。また、現在解析中である記録回収した細胞の遺伝子発現プロファイルについて、脳波-発火活動データとの関連性を解析する。解析により、「SWR中に発火しやすい細胞が遺伝子A、B(仮)を高いレベルで発現している」「SWRの直前に発火しにくくなる細胞では遺伝子C、D(仮)が低発現である」というような相関性を見出す。 その後、見出した候補遺伝子A、B、C、Dの役割の検証を行う。まずは本手法と同様の条件で発火活動を記録したのち、細胞を回収するのではなく免疫染色法を行う。これにより、Spike-seq法で得られた候補遺伝子がタンパク質レベルでも発現量の変動が生じているか、など結果の妥当性を確認する。また、ウイルスを作成することで候補遺伝子を過剰発現・発現抑制を行い、行動試験と海馬における神経活動の記録を行う。候補遺伝子の発現変動が神経細胞の活動に及ぼす影響や、記憶行動をどう変化させるかを検証する。 また、並行してSpike-seq法のさらなる改良を進め、麻酔なしで記録回収を可能にする。現在、自作のトレッドミル装置を用いることで行動中でも安定して発火活動を記録することに成功している。記録時間やスループットが麻酔条件に比べて低いため、今後改善を目指す。 以上の方策をもって、空間記憶に関連する海馬神経細胞の分子メカニズムの探索を進めていく。
|