研究課題/領域番号 |
22KJ0418
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補助金の研究課題番号 |
22J20039 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分90120:生体材料学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
伊藤 椎真 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 疎水化タラゼラチンマイクロ粒子 / 組織接着性 / 水中安定性 / 創傷被覆 / 早期消化管がん除去 / 局所がん治療 / 組織接着 / タラゼラチン / マイクロ粒子 / 疎水性相互作用 / 粒子径 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、十二指腸での内視鏡を用いたがん摘出時に発生する創傷に強く接着し、なおかつ残存するがん細胞を死滅させる材料の設計を行う。組織接着のために、疎水基(組織接着を促す物質)を化学修飾した疎水化ゼラチンを合成する。また、ゼラチンの水溶液にエタノールを滴下し、乾燥させることで疎水化ゼラチンマイクロ粒子を作製する。このゼラチン粒子を水和させることで組織に接着するコロイドゲルを作成できる。さらに磁場に反応して発熱する酸化鉄ナノ粒子や抗がん剤をを混ぜ合わせることで、内視鏡でがんを取り除いた後の創傷部を被覆する効果を発揮しつつ、残存したがん組織を治療する材料を設計する。
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研究実績の概要 |
前年度(2022年度)の研究では、内視鏡による早期消化管がん除去部を被覆可能な疎水化タラゼラチンマイクロ粒子(C10MPs)の粒子径の最適化を行った。一方、内視鏡により早期消化管がんを摘出しても、がん細胞が患部に残存した場合には1.3~4.2%の確率でがんが再発するといわれている。そのため、創傷被覆能を有するC10MPsと抗がん効果を有する材料とを複合化させることにより、がん除去部の創傷被覆とがん治療を同時に達成するシステムの構築が重要である。本年度(2023年度)は、組織接着性が明らかにされているC10MPsと、磁場に応答することで発熱してがんの温熱治療効果を有する超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPION)を物理的に複合化することで、組織接着性を有する有機無機ハイブリット材料(C10/SPコロイドゲル)を調製した。本材料を用いることにより、がん摘出部位において創傷を被覆すると同時に、残存するがん細胞を局所的に死滅させることを目的とした。 C10MPsとSPIONを物理的に混合したC10/SP 粉末は水和することのみでC10MPs間での疎水性相互作用およびC10MPs-SPION間での配位結合を形成し、C10/SPコロイドゲルを形成した。また、様々な質量比でC10/SPコロイドゲルを作成(C10/SP=50/0, 50/20, 50/40, 50/60 mg/mg)し、組織接着性を測定すると、C10/SP=50/40 mg/mgで最大値を示した。これは、SPIONが高濃度の条件(C10/SP=50/60 mg/mg)では、SPIONの親水性が優位となり、組織接着性が失われるためであると推察した。C10/SPコロイドゲル(C10/SP=50/40 mg/mg)を大腸がん担がんマウスに埋入し、磁場を印加すると、埋入部位の局所温度が抗がん効果が表れる43.5℃まで上昇した。埋入後12日まで温熱治療を継続したところ、C10/SPコロイドゲル群の腫瘍体積が未処置群よりも有意に減少した。従って、C10/SPコロイドゲルは、内視鏡手術後の創傷被覆材として作用するとともに、局所での残存がん治療にも応用できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述の局所温熱がん治療に向けた組織接着性の有機無機ハイブリット材料(C10/SPコロイドゲル)の開発に加え、現在研究を進めているC10MPsの水和速度における課題を克服する研究も行ったためである。C10MPsは組織接着性を有するが、疎水基を有するため組織上で水和しゲル層を形成するまでに30分を要するという課題があった。そのため、臨床での応用に向けてC10MPsの組織接着性を維持しながら水和能を向上させる分子設計が求められていた。そこでC10MPsの疎水基とApGltnの結合に着目した。現行のC10MPsは疎水基とApGltnが第2級アミンで結合しており、先行研究では、第2級アミンよりもアミド結合がより多くの水分子と相互作用するという結果が報告されていた。そこで本研究では、現行の第2級アミン形成により疎水基を導入したタラゼラチンによる粒子(C10-sa-MPs)とアミド結合により疎水基を導入したタラゼラチンによる粒子(C10-am-MPs)を調製し、疎水基の結合状態が水和能、組織接着性および止血能へ及ぼす影響を評価した。 アミド結合により疎水基を導入したタラゼラチンは高pH下でApGltnに無水デカン酸を作用させることで合成した。その後C10-am-MPsは貧溶媒によるコアセルベート形成により調製した。得られたC10-am-MPsはC10-sa-MPsよりも高い水和能を有し、水和時間を30分から10分に短縮することができた。これは、分子内のアミド結合の増大により水和水を捕捉しやすくなったためであると考えられた。一方、C10-am-MPsの組織接着性はC10-sa-MPsと同等の性能を示したことから高い水和能と組織接着性の両立が達成された。ラットの肝臓出血モデルにC10-am-MPsを適用すると、未処置と比較して有意に出血量が減少し、市販の止血剤(AristaTM)と同等の止血性能を有する事を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、内視鏡による早期消化管がんの除去部に残存したがん細胞を局所的に治療する戦略として、薬剤内包型疎水化タラゼラチン粒子ゲルの作製を行う予定である。臨床において、内視鏡手術によるがん除去後のがん再発防止法は抗がん剤の経口・静脈投与による全身治療である。しかし、使用されている抗がん剤の多くは全身を巡ることでがん細胞だけでなく正常細胞も作用するため、重篤な副作用を引き起こしてしまう。そこで、抗がん剤をがん組織の周辺に局所的にデリバリーする治療法が注目されている。来年度(2024年度)の研究では、組織接着性が明らかになっている疎水化タラゼラチン粒子(C10MPs)に疎水性の抗がん剤であるパクリタキセル(PTX)を内包させたPTX/C10コロイドゲルを作製する予定である。PTXの結晶粉体とC10MPsを混合することで得られる粉体は水和することのみで互いに疎水性相互作用を形成しゲル化することがこれまでの予備実験で明らかとなっている。そこで、PTX/C10コロイドゲルと疎水基未修飾のPTX/C10コロイドゲルを用いてPTXの徐放性を評価する予定である。C10MPsコロイドゲルOrgMPsコロイドゲルと比較して水中での安定性が高いため、生理的環境下では難水溶性のPTXをゲルのマトリックス内で長時間維持し、PTXの局所濃度の維持と徐放が可能となると考える。さらに、PTX/C10コロイドゲルを大腸がんによる担がんマウスに投与して腫瘍成長の抑制効果を明らかにする。
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