研究課題/領域番号 |
22KJ0441
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補助金の研究課題番号 |
19J40074 (2019-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2019-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分45020:進化生物学関連
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
宮川 美里 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2019年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | 性決定遺伝子 / transformer / ゲノム編集 / 膜翅目昆虫 / アリ / 機能解析 / 性決定分子機構 / 性決定機構 / doublesex |
研究開始時の研究の概要 |
アリやハチを含む膜翅目昆虫は侵略種としての影響が大きい。しかし単一の遺伝子座による単数倍数性の性決定には、近親交配で生じた子の半分が不妊雄になる弱点があり、侵入初期の個体群のように遺伝的多様性が低い場合はこの弱点を避けられない。しかし、一部のアリや寄生バチは性決定遺伝子座を複数獲得し、近親交配のコストを抑制していることが示唆されている。ウメマツアリは二つの性決定遺伝子座を獲得し、近親交配で生じる不妊雄が全体の25%に抑制される。本研究では「性決定遺伝子座の複数化による近親交配のコストの抑制」という戦略がどのように進化したのかを理解するため、性決定機構の分子カスケードの全貌の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、近親交配の抑制効果が期待できる性決定遺伝子座の複数化が進化したウメマツアリVollenhovia emeryiにおいて性決定分子シグナルカスケードの全貌を解明することで、「性決定初期遺伝子の複数化による近親交配のコストの抑制」というダイナミックな戦略がどのようにして進化したのかを理解することを目的としている。本種は二つの性決定遺伝子座CSDが独立な染色体上に存在し、少なくとも一方がヘテロ型であれば雌に、両方がホモ型の場合のみ雄になる。興味深いことに、本来であれば雌への分化をもたらすヘテロ型性決定遺伝子座と、雄への分化をもたらすのホモ型性決定遺伝子座が混在した個体でも、その表現型は雌雄の中間型ではなく正常な雌になる。二つの独立な性決定初期シグナルの制御下で正常な性分化が保証される分子機構を解明するため、2022年度は性決定関連遺伝子transformer(tra)の過剰発現(初期胚へのmRNA導入)や、traの機能阻害による性転換の確認を行った。二つの性決定遺伝子座で性が制御される場合、少なくとも一方の遺伝子座がヘテロ型であれば雌になるが、これはヘテロ型遺伝子座由来の雌化シグナルがtraの正のフィードバック制御によって増幅されるためであることを示した。さらに、traの機能阻害による下流の性分化遺伝子dsxの発現が雌型から雄型にシフトしたことから、tra-dsxのカスケードが保存されていることをアリ類で初めて証明した。これらの研究結果は、第93回日本動物学会早稲田大会、第67回日本応用動物昆虫学会、今年1月に開催された応用動物昆虫学会北海道支部会と、米国で開催された国際社会性昆虫学会で発表された。さらに上記の内容をまとめた論文は2023年3月に英科学雑誌Insect Biochemistry and Molecular Biologyにて採用された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、二つの相補的性決定遺伝子座CSDによって性が決まるウメマツアリにおいて、性決定分子カスケードの全貌の解明を目的に行われている。2022年度は、CRISPR-Cas9法を用いたゲノム編集技術を向上させ、性決定関連遺伝子の候補であったtransformer(tra)遺伝子が雌への分化に必須であることや、下流の性分化遺伝子dsxのスプライシングを制御する機能があることを証明した。本種の場合、二つの性決定遺伝子座のうち少なくとも一方がヘテロ型であれば雌になるが、その背景にヘテロ型遺伝子座由来の雌化シグナルがtraのフィードバック制御によって増幅されることも示された。性決定初期遺伝子の複数化は生物全体でみても稀な現象であるが、多くの昆虫で保存されているtra-dsxのカスケードや traのフィードバック制御による発現増幅機構の上に成り立ていることが示された。これらの研究結果は論文にまとめられ、2023年3月に国際雑誌に採用された。さらに、本研究を通してtraの遺伝子重複で生じた tra-likeの遺伝子構造や発現パタンが明らかになり、その特徴からtra-likeが一方の性決定遺伝子座の実態をに担っている可能性が強く示唆された。本研究を通して、アリ類の性決定遺伝子のより詳細な解明だけでなく、ゲノム編集をなど実験技術の向上があったことから、研究がさらに発展することが期待できる。以上より、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
ウメマツアリの一方の遺伝子座には、transformer(tra)遺伝子とその重複で生じたtra-likeがコードされており、tra-likeが性決定初期遺伝子の1つとして機能してい る可能性が高い。他方の性決定遺伝子座(236kb)には15個の遺伝子がコードされている。通常、雄の性決定遺伝子座はホモ型になるが、同遺伝子座内のSNPsがヘテロ型の雄を利用することで、責任遺伝子がコードされている領域をさらに絞りこんできた。本年度はtra-likeの機能阻害や過剰発現による表現型の変化や、下流の性決定関連遺伝子であるtraやdsxの性特異的スプライシングパターンが変化するかを確かめることで性決定初期遺伝子としての機能を確かめる。また、tra-likeと同等の機能が予想される性決定初期遺伝子の同定を行う。まず、これまで同様に責任遺伝子がコードされている領域を絞りこみ、昨年度に得たゲノムリシークエンスデータを用いて候補遺伝子を選抜する。候補遺伝子は機能阻害による性転換の有無から性決定初期遺伝子としての機能を確かめる。また、RNA結合ドメインを持つ協調因子 transformer2(tra2)と結合する因子からも性決定初期遺伝子の絞り込みを行う。ミツバチの性決定初期遺伝子はRNA結合ドメインを持たないため、単独では下流遺伝子のスプライシングを制御できず、協調因子Tra2と結合して働くことが分かっている。したがって、ウメマツアリのTra2と相互作用する分子をYeast Two-Hybrid法を用いて解析することで未知の性決定初期遺伝子を絞り、候補となった遺伝子で機能解析を行う予定である。
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