研究課題/領域番号 |
22KJ0467
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補助金の研究課題番号 |
21J21037 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分28010:ナノ構造化学関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
相澤 匠 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2021年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
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キーワード | 自己集合 / 発光 / 水素結合 / 超分子ポリマー / ナノチューブ / ナノシート / アントラセン / 階層的自己組織化 / DNA / OLED |
研究開始時の研究の概要 |
人工の分子を用いてナノサイズの構造を作り上げる技術は近年著しい発展を見せており、ナノ構造材料を用いた全く新しい素子や用途への幅広い応用研究が行われています。中でも近年最も発展したナノ構造材料の一つがDNAオリガミです。しかしながら、多くのDNAオリガミの研究は自然が生み出した優秀なDNAを利用した構造開発の域を脱しておらず、なかでも【人工の自己集合分子】と【DNAオリガミ技術】の融合は発展途上の分野といえます。 申請者が所属する研究室では、人工の自己集合分子によってナノサイズのリングやチューブの構築を行ってきました。今回申請者はこの技術とDNA工学を融合させ、全く新しい構造体の構築を目指します。
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研究実績の概要 |
これまで我々は、直線状に拡張されたπ共役バルビツール酸分子の自己集合挙動の調査を行ってきた。それらは低極性溶媒(メチルシクロヘキサン)中において相補的水素結合によって環状六量体(ロゼット)を形成し、このロゼットがπ-π相互作用で湾曲性を維持しつつ自発的に積層することで様々なかたちを持つ超分子ポリマーを形成する。一方で最近、ある限定的な条件下でのみ、分子が1次元状に連結した水素結合パターン(テープ)に由来する結晶性シート状集合体を与えることも見出している。 昨年度は、結晶性シート状集合体を選択的に得るいくつかの分子設計を検討した。かさ高いπ共役系を用いることでロゼット形成を経由した自己集合経路が制限され、テープ形成を経由した発光性の超分子ナノシートを形成することが明らかになった。これらの分子設計を適切に調整することで得られる強発光性のナノシートの固体薄膜はOLEDデバイスへの応用に有望であることがすでに分かっており、この成果は現在論文執筆中(計画①)である。 2-チオバルビツール酸を水素結合部位に用いることで選択的にテープ状水素結合パターンをもつ結晶性繊維が得られることが分かった。チオバルビツール酸集合体は、チオカルボニル基の励起状態電荷分離により無発光性であり、先述の強発光性ナノシートとは大きく異なる性質をもつ。この成果は既にChemical Communications誌に掲載された。 (計画②) さらに、最近ではアントラセン骨格を有する強発光性のナノチューブの創出にも成功しており、今後は上記の多様な構造と機能を有する自己集合体を駆使し、さらなる未踏のナノ構造材料へと展開する準備ができている。(計画③)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
私は様々なナノ構造へと自己集合する合成超分子と、生体超分子の高選択的自己集合を融合させ、次世代のナノ構造材料の構築を目的として研究を遂行している。その中で2022年度、以下の2つの研究項目について検討を行った。 1) チオカルボニル基を用いた水素結合能調整: 2-チオバルビツール酸を水素結合部位に用いることで選択的に結晶性集合体を得られることが分かった。この成果はChemical Communications誌に掲載された。 2) 強発光アントラセン二量体によるナノチューブ集合体の構築を達成した。この自己集合は生体超分子であるチューブリンを彷彿とさせる高い協働性を有していた。国内外合わせて10近い研究機関との共同研究を展開しており、既に学会発表等においても高い評価を受けている。この成果は現在論文執筆中である。 今後は上記の多様な構造と機能を有する自己集合体を駆使し、さらなる未踏のナノ構造材料へと展開する準備ができている。当初の研究目的である「DNAを用いた複雑構造の構築」についても、既に国内の人工DNA合成の専門家と共同研究が始まっているところである。今後は得られた分子構造制御を駆使し、さらなる高階層の自己集合制御を行い、その挙動について精密に解析を行う。 これらのことから、研究は予想以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ナノ構造探索に関する研究の中で発見した興味深い挙動を示す自己集合ナノチューブについても研究を進め、本年度中に報告する。得られたナノチューブは、その形態・機能の両面において学術的に極めて重要な結果を示しており既に国内外の複数の研究チームとの共同研究によって詳細な構造の解析と機能の解明が行われている。 昨年度は英国肝入りの研究機関である『中性子・ミュオン研究施設ISIS』と『放射光研究施設Diamond Light Source』の共同研究者の協力のもと、X線・中性子散乱を用いてより詳細な構造解析が行われた。これらの実験結果について今後も、英国の光散乱専門の研究者とオンラインの会議ツールを活用し継続的に議論を進めていく。 また、本年度はナノチューブ内での励起子の挙動を大阪大・九州大との共同研究により解明する。既に当該研究機関との綿密な打ち合わせが行われている。ナノチューブ内部は特異な環境にあることが予想され、小構造体をDNAの選択的結合を用いて接合するだけでなく、その内部で空間的に運動を制限しつつ内包する重要な基盤構造になりうる。 さらに筑波大学の計算科学研究センターとの共同研究により、量子化学計算を駆使して構造の解析と議論を深める。すでにいくつかの計算が進行中であり、構造解析を強く支持する結果が得られている。 また、本年度はこれまでに探究した自己集合分子へのヌクレオチド鎖の適切な修飾方法や、それらの種類等を選定し、構築したナノ構造同士の接合とそれらの物性のアンサンブルの観察に挑む。すでに国内の人工DNA合成や修飾を専門にする研究者との共同研究も始動している。また本年度も学会発表に関しては国内・国際学会で最低でも1件ずつ発表する予定である。
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