研究課題
特別研究員奨励費
ウナギ属魚類は海の産卵場と汽水・淡水域の成育場との間を行き来する通し回遊魚である。彼らは繁殖のため、成育場から産卵場へ向けて産卵回遊を行うことで知られる。本研究課題のこれまでの研究によって、太平洋におけるウナギ属魚類の遊泳行動の特性と回遊中の方位決定方法を明らかにした。今年度は、大西洋に分布するヨーロッパウナギにおける遊泳行動の特性と方位決定方法を明らかにする。本研究では、フランスへ渡航し、前年度に実施した行動追跡実験と数値実験と同様の実験をヨーロッパウナギに実施する。ヨーロッパウナギにおける知見を、太平洋における知見と比較することで、ウナギ属魚類の産卵回遊における行動特性の解明を目指す。
1.大西洋におけるウナギ属魚類の日周鉛直移動の特性:アメリカウナギとヨーロッパウナギの行動追跡データの提供を受け、遊泳行動の解析を行った。両種においても、日周鉛直移動が確認された。しかし、光環境で規定される太平洋種とは異なり、月高度や月齢と遊泳水深との間に有意な相関は認められなかった。一方で、昼夜ともに、遊泳する海域の水温構造に従って、一定の水温を経験するように遊泳水深が変動していた。この特徴は、アメリカウナギとヨーロッパウナギで共通していた。このことから、大西洋と太平洋におけるウナギ属魚類では、日周鉛直移動を規定する機構が異なるのかもしれない。2.大西洋におけるウナギ属魚類の定位機構:ヨーロッパウナギの定位機構を検討する数値実験を行った。その結果、本種の成育場から投入した仮想粒子は地磁気のみによる定位では、推定産卵場には到達しないことが分かった。この結果は、前年度までに実施した西部北太平洋におけるニホンウナギとオオウナギの粒子追跡シミュレーションとは異なるものであった。ウナギ属魚類は、種もしくは海域によって定位方法が異なることが示唆された。しかし、本種が地磁気に従って定位した場合の数値実験の結果は、欧州沿岸からアゾレス諸島近海へ至る過程を追跡したバイオロギン研究の報告と良く一致していた。このことから、本種における産卵回遊の前半部分(沿岸域からアゾレスへ至る過程)では地磁気を用いて定位し、その後は異なる環境情報に基づく定位へ切り替わるのものと推察された。3.インド洋におけるウナギ属魚類の行動の追跡:モザンビークウナギをマダガスカル東岸から放流し、本種の産卵回遊行動の追跡を試みた。計8基のデータロガーを放流し、ウナギの遊泳行動を追跡中である。データが得られるのは、2024年7月になる見込みであるが、データが得られ次第、本種の日周鉛直移動の特徴と関連する環境要因を明らかにする。
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Zoological Studies
巻: 62(46)
Cybium
巻: 48
Journal of Experimental Marine Biology and Ecology
巻: 542-543 ページ: 151587-151587
10.1016/j.jembe.2021.151587