研究課題/領域番号 |
22KJ0602
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補助金の研究課題番号 |
21J20882 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分44040:形態および構造関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
油谷 直孝 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2021年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
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キーワード | 軟骨魚類 / 広塩性 / 腎機能 / 浸透圧調節 / エイ類 / 尿量 / 糸球体濾過量 / アクアポリン / 腎臓 / 膜輸送体 |
研究開始時の研究の概要 |
ほとんどが海棲種である軟骨魚類(エイ類・サメ類・ギンザメ類)においても、海水・淡水の両環境を利用できる広塩性種が存在する。本研究では、淡水適応に重要な役割を果たす腎臓に注目し、淡水適応に伴う腎機能変化を引き起こす制御因子の特定を目的とする。腎臓でのネフロン分節特異的なホルモン受容体発現の網羅的解析や、脳下垂体で発現するホルモンの遺伝子発現解析を通じて、広塩性種に特徴的な変化を引き起こす因子の特定を目指す。明らかになったメカニズムを真骨魚類など他の脊椎動物での知見とも比較し、広塩性の軟骨魚類が淡水環境を利用できる仕組みとその制御因子の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、90%以上が海水にのみ生息する軟骨魚類の中でも、淡水への進出を果たした広塩性種の持つ低塩分環境適応メカニズムを解明し、軟骨魚類の環境適応と進化の歴史を理解することを目的としている。広塩性のアカエイやオオメジロザメ、狭塩性のホシエイをモデルに、広塩性を支える重要な器官である腎臓に注目し、分子から個体生理学的までの包括的解析を進める。令和4年度は、昨年度に確立したアカエイの飼育移行実験やトラザメでの採尿方法を応用し、淡水環境に馴致させたアカエイを再度海水に馴致させ、海水・淡水・海水環境で繰り返し採尿することに成功した。その結果、低塩分環境下では尿量が80倍にも上昇して体内に過剰となる水を排出していること、海水に再度馴致させると、尿量は元々の海水環境レベルに減少することがわかった。また、この尿量上昇を引き起こすメカニズムとして、糸球体濾過量の上昇と、ネフロンでの水再吸収抑制、すなわち腎臓ネフロンでの水再吸収を担うアクアポリン分子の変動によるものであることを明らかにした。トランスクリプトーム解析と定量PCR、in situ hybridization法による組織学的な解析から、アクアポリンの種類によって淡水環境で発現が上昇するものと低下するものが存在し、そのことが尿量の増加と尿素保持という、淡水環境における2つの重要な腎機能を生み出す機構であることを示した。オオメジロザメにおいても同様の解析を実施したところ、尿量を増加させるアクアポリンは類似していたものの、尿素再吸収に関わるアクアポリンの種類と発現部位は異なることがわかり、同じ広塩性種と言ってもサメ類とエイ類では異なることがわかった。このような結果は、制御メカニズムに違いがある可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者による令和3年度までの研究で、アカエイの腎臓において、NaClや尿素といった溶質の再吸収が低塩分環境下で亢進され、体内に保持するメカニズムが明らかとなった。令和4年度はまずこの結果を取りまとめ、オープンアクセス誌に原著論文として公表し、プレスリリースも行なった。並行して、淡水適応時に重要なもう一つの要因である、尿量を増加させて体内に過剰となる水を排出するメカニズムの研究を進めた。飼育移行実験と採尿という生理学的研究の結果、低塩分環境下では尿量が80倍にも上昇することを示した。そのメカニズムとしては5倍に増加する糸球体濾過量だけでは説明できず、アクアポリン発現の低下によるネフロン内での水再吸収量減少との共作用であることを明らかにした。しかも、アクアポリンの種類によって発現部位と動態が異なり、このことが尿量の増加と尿素保持という2つの現象を同時に実現させる機構であることが明らかとなった。このような複雑なアクアポリン制御メカニズムは広塩性のサメ類であるオオメジロザメでも確認されたものの、サメ類とエイ類では用いるアクアポリン分子種が異なり、軟骨魚類が淡水に進出する過程での多様性を示唆している。一方で尿量増加のためのアクアポリン制御メカニズムには陸上脊椎動物との類似性が見られ、脊椎動物の進化における共通性にも言及できる。これらの研究結果は現在原著論文としてまとめている。以上の通り、生息環境の塩濃度変化に伴う腎機能の変化を初めて生理学から分子生物学までの包括的研究により明らかにしたものであり、研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度までの研究により、軟骨魚類の4回ループからなるネフロンでは、分節ごとにさまざまな膜輸送分子群が異なる制御を受けることが明らかとなった。すなわち、そのような制御を行う因子の存在を示唆している。そこで令和5年度は、広塩性を制御する因子の探索のために二つの方策をとる。まずは、ネフロン分節ごとの遺伝子発現を網羅的に解析する。そのために、薄切切片からレーザーマイクロダイセクションにより指定領域を切り抜き、RNAseq解析を行う。所属研究室では、トラザメを用いてこの解析技術を開発し、申請者も共著となり原著論文を公表した(Horie et al. 2023)。この手法がアカエイでも有効であるか、最適な条件を検討し、溶質と水の再吸収が変化した分節をそれぞれ抜き出す。海水個体と淡水移行個体を用いて分節特異的な遺伝子発現を網羅的に解析し、ホルモン受容体などに注目しながら、広塩性を可能にする制御因子の候補を見出す。 もう一つの方策は、体液調節に関わるホルモンが多数存在する脳下垂体での遺伝子発現を網羅的に調べることである。すでにサンプルの調整と網羅的なシーケンスを開始しており、淡水中で発現量が大きく変化するホルモンを見出す。 候補となるホルモンがペプチドであれば、ホモロガスなペプチドをカスタム合成してアカエイに投与し、尿量・組成や糸球体濾過量、NaCl輸送体やアクアポリンの遺伝子発現の変動を指標として、その作用を検証する。また、分子量の大きなタンパク質のホルモンであっても、受容体アンタゴニストの作用やin situ hybridizationによる発現部位を調べ、既知の知見と比較することからその機能に迫りたい。以上より、軟骨魚類における広塩性のマスター因子の解明を目指す。
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