研究課題
特別研究員奨励費
メラトニン受容体は、血中ホルモンであるメラトニンを受容し、睡眠の誘導など多様な生理現象を調節する。メラトニン受容体はその生理作用ゆえ、不眠症などの創薬標的として広く知られ、多数の薬剤が開発されてきた。近年、X線結晶構造解析によってメラトニン受容体の薬剤認識機構が解明されたが、結晶構造解析のために多数の変異が導入されたことなどから生体内の状態を反映しているとは言えず、メラトニン受容体の関与するシグナル伝達機構の包括的な理解は十分とは言えない。本研究ではクライオ電子顕微鏡を用いることで、メラトニン受容体によるシグナル伝達機構を包括的に理解することを目指す。
睡眠薬ラメルテオンとGiタンパク質三量体が結合したメラトニン受容体MT1のシグナル伝達複合体の立体構造を解明することに成功し、哺乳類細胞を用いた生化学的機能解析を行うことで変異体によるシグナル伝達活性の評価を行った。これにより、受容体の活性化に重要なラメルテオンとの相互作用を特定した。さらに、他のシグナル伝達複合体との構造比較から、Gタンパク質の共役選択性を特徴づける受容体の細胞内側の空間的な特徴を見出した。研究データをまとめてNature Structural & Molecular Biology誌に投稿し、レビュー期間を経て掲載されることとなった。MT1-MT2ヘテロ二量体の精製系を構築するための検討を実施した。膜タンパク質の構造解析で一般的に使用される界面活性剤での可溶化に加え、より生体内の環境を再現できるとして広く使用されている脂質ナノディスクへの再構成や、解離しやすい多量体タンパク質について量体数を保って再構成できるポリマーの使用を検討し、安定な精製に最適な条件・組成・混合比率をスクリーニングした。
2: おおむね順調に進展している
前年度において、メラトニン受容体MT1-MT2ヘテロ二量体の精製系を構築するための検討を実施し、安定な精製に最適な条件・組成・混合比率の手がかりを得ることにも成功した。しかし発現や精製のスケールを大きくすると結果の再現が上手く取れないという結果に直面したため、分割GFPフラグメントなどのタンパク質フラグメントを融合するなどの工夫を試し、より安定にMT1-MT2ヘテロ二量体をinvitroで取得するための条件を最適化することを目指している。また、メラトニン受容体に近縁の受容体であるGPR50についてもメラトニン受容体MT1あるいはMT2とのヘテロ二量体化が報告されていることから、これらについても分割GFPフラグメントなどを用いた発現あるいは精製の条件検討を実施し、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を目指している段階である。また、メラトニン受容体の活性化メカニズムを完全に理解するために、不活性化型の立体構造を取得することを目指している。先行研究にならってX線結晶構造解析を用いる戦略と、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析による構造決定の両面で試行錯誤している段階である。後者については、受容体の第3細胞内ループにタンパク質フラグメントや抗体認識配列を導入することで電顕での解析を容易にする工夫を検討している。
より安定にMT1-MT2ヘテロ二量体を精製するために条件を最適化し、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を目指す。さらに不活性化型の構造決定に向け、条件の最適化を実施する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
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