研究課題
特別研究員奨励費
メラトニン受容体は、血中ホルモンであるメラトニンを受容し、睡眠の誘導など多様な生理現象を調節する。メラトニン受容体はその生理作用ゆえ、不眠症などの創薬標的として広く知られ、多数の薬剤が開発されてきた。近年、X線結晶構造解析によってメラトニン受容体の薬剤認識機構が解明されたが、結晶構造解析のために多数の変異が導入されたことなどから生体内の状態を反映しているとは言えず、メラトニン受容体の関与するシグナル伝達機構の包括的な理解は十分とは言えない。本研究ではクライオ電子顕微鏡を用いることで、メラトニン受容体によるシグナル伝達機構を包括的に理解することを目指す。
共同研究を実施していたRalf Jockers博士(フランス・Institut Cochin)と大石篤郎博士(杏林大・医)らから、MT1サブタイプ選択的にGsシグナルが生じる報告を受け、この構造基盤を解明すべくMT1-Gsシグナル伝達複合体の構造解析をクライオ電子顕微鏡を用いて実施した。平均分解能3.0Åで密度マップの取得に成功し、過去に報告したMT1-Gi 複合体の立体構造(Okamoto et al., Nat. Struct. Mol. Biol., 2021)と異なる結合様式でMT1とGsが結合していた。さらにこれまで報告されてきた他のクラスAのGPCRとGsとの複合体とも結合様式が異なっており、TM3とICL2のみを介して相互作用を形成し、ほぼ全てのGs複合体で観察されている高度に保存された受容体のArgとGsのC末端領域のTyr391との相互作用が観察されなかった。さらに同じ条件ではGsシグナルが確認されなかったMT2サブタイプについて、TM5からTM6までの領域をMT1のアミノ酸配列に置換したところ、Gsシグナルが確認され(Jockers博士と大石博士との共同研究)、クライオ電子顕微鏡による構造解析の結果、平均分解能3.0Åで密度マップを取得した。MT1-Gs複合体と比較すると、全体構造において大きな違いは見られず、別グループから報告されていたMT2-Gi複合体(Wang et al., Nature Commun., 2022)と比較しても全体構造に大きな違いは見られなかった。そのため、フレキシビリティが高く密度が観測されなかったICL3がサブタイプ選択的なGs共役を制御している、という仮説を立てており、ICL3のダイナミクスを計測するような生物物理学研究の展開を計画している。また、一連の研究成果をまとめ、国際学術誌に現在投稿準備中である。
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Journal of Pineal Research
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