研究課題/領域番号 |
22KJ0662
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補助金の研究課題番号 |
21J21993 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
辻川 夕貴 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2021年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
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キーワード | ホウ素 / ホウ素化合物 / 二次元表面 / 一次元 / ホウ化銅 / 原子層 / ボロフェン / ボライド |
研究開始時の研究の概要 |
ホウ素は4つの軌道と3つの電子をもつことから様々な形の結合を組み、多彩な原子構造をとり得る。これは低次元のホウ素物質についてもいえ、原子層ながら多彩な構造とそれに由来する物性を示す二次元ホウ素物質が近年注目を浴びている。本研究では、様々な金属基板上にホウ素を蒸着することで新たな試料を作製し、その構造を研究している。例えばAg(111)基板上ではホウ素単原子層である"Borophene"が作製されるが、Cu(111)基板上ではホウ素と銅の化合物である"Cu-Boride"が作製されることが分かった。さらに、構造のみではなく電子物性の測定も行い、試料の構造と機能特性の相関を明らかにしている。
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研究実績の概要 |
本研究は近年注目を集めている二次元ホウ素(B)物質に着目し、多彩な構造をとるこれらホウ素物質群を、陽電子をプローブとする回折手法(全反射高速陽電子回折法、TRHEPD法)を用いることで未解明な構造を実験的に明らかにし、その機能特性(物性)への知見を得ることを目的としている。 初年度から研究を続けているCu(111)基板上のホウ素物質について、TRHEPD法を用いて、その正しい構造が表面Cu原子とB原子と再構成を起こす銅とホウ素の化合物、Cu-Borideであることを示し、構造についての論争をおさめた。判明した構造はホウ素のジグザグな原子鎖と銅のジグザグ原子鎖が交互にならんだ特異な構造であった。さらにX線分光法(XPS)による同試料の化学状態の測定も行い、表面B原子が周りのCu原子から電子を供給されることを明かした。第一原理計算での結合軌道のシミュレーションにより、ホウ素原子鎖が炭素の原子鎖であるCumuleneと同様の電子状態をとることがわかった。XPSの結果と合わせると、同試料内でのホウ素原子鎖はホウ素が周りから電子をもらうことで炭素原子鎖と同様の電子状態をとり安定していることがわかり、新たなホウ素系の一次元物理を足掛けとなる大きな発見となった。 さらに、この新たなホウ素と銅の表面化合物、特にその次元性に着目し、銅基板の種類を変えながら、研究を進めている。Cu(100)、Cu(110)基板、それぞれにおいてホウ素蒸着による試料合成には成功しており、各表面物質の解明への準備が進んでいる。特に、B/Cu(110)は報告例のない新たな秩序構造の発見となったため、Surf Sci. 732, 122282 (2023). にて先んじて報告している。どの試料もXPS測定の結果ではホウ素と銅の化合物の特徴を示しており、ホウ素と銅の表面化合物における、さらなる物理の探索が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々が行った構造解析によって、Cu(111)基板上のホウ素物質の正しい構造がCu表面に作製される二次元ホウ化銅、Cu Borideであることを解明することができた。同試料は同様のSTMトポグラフィー像を得た異なるグループ同士でその正しい構造が議論となっていた。我々の結果はその論争をおさめたとともに、ホウ素蒸着による金属基板上のホウ化物の合成という新たな研究展開を示した。 さらに、光電子分光測定による化学状態の測定と第一原理計算を生み合わせることで、同試料内のホウ素一次元鎖の起源について、ホウ素が電子をもらうことで炭素の一次元鎖と同様の電子状態をとり安定するためだと解明し、新たに「Bumulene」と名付けたホウ素化合物の新しい一次元分子概念を構築した。 上記の結果を得て、この二次元ホウ化銅及びその、内部でのホウ素原子の構成要素に着目し、他のCu単結晶上でのホウ素物質の合成を試みた。するとホウ素の一次元構造の合成がより優位になると考えられる二回対称のCu(110)単結晶上で新たな表面秩序相を発見するに至った。Cu(001)基板上での試料合成にも成功しており、二次元ホウ化銅についてのさらなる研究は大いに期待される。 以上のように、Cu基板上の二次元ホウ素物質は当初の研究対象であったホウ素単原子層シート(ボロフェン)とは異なる物質であったことが判明したが、新たに解明された二次元ホウ化銅はその次元性と新奇性からホウ素原子層科学及ぶ材料科学分野への大きなインパクトを与える物質になり得る。そのため今年度は当初の計画を超えた研究成果を得ることが出来たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き二次元ホウ化銅に着目し、様々なCu単結晶基板上での表面ホウ素物質の研究を行う。Cu(110)基板上のホウ素物質は我々が発見したため、走査型トンネル顕微鏡での測定と組み合わせ、その構造の同定を試みる。また、Cu(001)基板上のホウ素物質は、ボロフェンであるという報告例[1]があるが、我々の光電子分光測定ではホウ化銅の特徴も示しており、Cu(111)基板上のホウ素物質と同様に、その詳しい構造の解明は必須である。 以上の構造の解明とともに、今年度から測定を開始している角度分解光電子分光法をはじめとした高分解能光電子分光法を用いて、試料の電子物性を測定し、構造が電子状態に与える影響について議論する。特に一次元においては、その構造と電子物性の関係において、特異な物理現象が知られており、本研究で統計的に正確な構造と電子状態を解明することは意義深い。 また、ホウ素と水素の二次元化合物であるボロファンについても、現状では様々な化学的手法によって合成が行われているが、本研究で合成された様々なホウ素化合物に水素を蒸着することで、新たなボロファンの合成を試みてその構造を解析する。
[1]R.Wu et al., Nat. Chem. 14, 377 (2022).
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