研究課題
特別研究員奨励費
ホウ素は4つの軌道と3つの電子をもつことから様々な形の結合を組み、多彩な原子構造をとり得る。これは低次元のホウ素物質についてもいえ、原子層ながら多彩な構造とそれに由来する物性を示す二次元ホウ素物質が近年注目を浴びている。本研究では、様々な金属基板上にホウ素を蒸着することで新たな試料を作製し、その構造を研究している。例えばAg(111)基板上ではホウ素単原子層である"Borophene"が作製されるが、Cu(111)基板上ではホウ素と銅の化合物である"Cu-Boride"が作製されることが分かった。さらに、構造のみではなく電子物性の測定も行い、試料の構造と機能特性の相関を明らかにしている。
本課題では近年注目を集めている二次元ホウ素物質に着目し、多彩な構造をとるこれらホウ素物質群を全反射高速陽電子回折法(TRHEPD法)という手法を用いて実験的に直接、構造を解明することを目指して開始された。ホウ素は多彩な結合をとることから、様々な構造を安定してとり得ることが知られる。二次元のホウ素物質もその例にもれず、多彩な構造が計算上安定して存在しうり、走査型トンネル顕微鏡(STM)などの実空間上の電子状態の観測だけでは、その構造を絞りこめないという難しさがあった。本課題で回折法を用いて直接、原子構造を観測することにより、議論のあったCu(111)基板上のホウ素表面の構造を決定するとともに、新たなホウ素表化合物の物理を開拓するにいたった。本研究では三つのCu基板、Cu(111)、Cu(100)、及びCu(110)基板上のホウ素表面について研究を行った。Cu(111)基板上のホウ素表面はSTMによる先行研究により、単原子層であるBoropheneモデルと、表面でCu原子と再構成を起こすCu-Borideモデルの二つのモデルの間でどちらが正しい構造が議論されていたが、本課題でのTRHEPD測定によって、Cu-Borideモデルが正しいことが判明し、その後の考察で、構造内の一次元ホウ素鎖が電子ドープされ構造の安定性に寄与しているというBumuleneモデルを我々は提案した。このホウ化銅の発見を受けて、他のCu基板においてもホウ素表面合成を行い、Cu(110)基板において新たな二次元秩序相を発見するにいたった。この3×1-B/Cu(110)表面をSTMにより観察したところ、異方的に成長する一次元構造をしており、その内部構造は通常の並進対称性を示さない準周期的な構造を示した。このように、低次元ホウ化物は今後もさらなる物理の探索が期待される。
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