研究課題
特別研究員奨励費
他者にとって望ましい行動、向社会行動は様々な生物において見られるが、その基盤となる社会認知様式は明らかでない。幅広い生物に適用しうる仕組みとして、対面した相手が同居か非同居かという情報の効率的処理(カテゴリー化)が注目される。そこで本研究は、高い向社会性をもつラットの同性間社会認知において、同居・非同居カテゴリーが存在するかを探る。また、個体の社会経験や行動特性が、同居・非同居認識形成に与える影響を調べる。同居・非同居(親近性の高低)カテゴリーに関する知見は、ヒトなどに見られる内集団・外集団バイアスの系統発生的起源の理解にもつながることが期待される。
本年度は、同居・非同居認知に関する基礎的知見として、メスラットの行動特性と社会関係構築に関する探索的研究を投稿論文として発表した。概要は以下の通りである。行動特性と社会行動の関連は、同居開始からの経過時間によって変化した。新奇・危険な状況への反応傾向である探索傾向や大胆さといった行動特性は、関係構築期の社会行動に関連していた。一方で、未知個体との同居期間が長くなり、未知個体や環境に馴化したと考えられる関係維持期には、活動性が社会行動に関連していた。また、関係維持期には、約半数の個体が集団内の特定個体への選好・忌避を示し、ラットが選択的なパートナー選好・忌避関係を築きうることが示唆された。さらに、オスラットを用いて、上記のメスラット実験を拡充した実験を行った。個体間距離などの活動・関係性指標の時間変化を解析したところ、活発な社会・環境探索は合流後数日の短期間(特に1週目)で盛んに行われ、2週目半ばには概ね社会関係が構築される、という速やかな関係構築が行われていることが推測された。最後に、同居・非同居個体をカテゴリー的に識別しているかを調べる馴化脱馴化実験を実施した。脱馴化が十分に生じなかったため明確な結論を得ることはできなかったが、複数の同居個体を連続して呈示した同居馴化条件では、刺激に対する一定の馴化傾向が見られた。ラットは同居・非同居情報をカテゴリー的に識別しているというよりも、むしろ同居情報を表象する手がかりがある場合にのみ「同居」と認識し、同居馴化条件では、その手がかりに対して一定の馴化が生じた可能性が推測された。本課題では、複数個体の社会行動を半自動的・定量的に計測することが可能なシステムを作成して、同居集団の形成過程を詳細に追跡することが可能になった。それにより、「同居」状態の形成過程および行動特性・社会関係との関連の一端を明らかにすることができた。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 5件)
PLOS ONE
巻: 18 号: 12 ページ: e0295280-e0295280
10.1371/journal.pone.0295280
PsyArXiv
巻: -
10.31234/osf.io/5kdnv
Genes, Brain and Behavior
巻: 21 号: 2
10.1111/gbb.12780