研究課題/領域番号 |
22KJ0702
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補助金の研究課題番号 |
21J23113 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
博多屋 汐美 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 400千円 (直接経費: 400千円)
2021年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | ラット / 社会認知 / 社会関係 / 行動特性 / 向社会性 |
研究開始時の研究の概要 |
他者にとって望ましい行動、向社会行動は様々な生物において見られるが、その基盤となる社会認知様式は明らかでない。幅広い生物に適用しうる仕組みとして、対面した相手が同居か非同居かという情報の効率的処理(カテゴリー化)が注目される。 そこで本研究は、高い向社会性をもつラットの同性間社会認知において、同居・非同居カテゴリーが存在するかを探る。また、個体の社会経験や行動特性が、同居・非同居認識形成に与える影響を調べる。 同居・非同居(親近性の高低)カテゴリーに関する知見は、ヒトなどに見られる内集団・外集団バイアスの系統発生的起源の理解にもつながることが期待される。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、同性ラットの社会認知において同居・非同居(親近性の高低)カテゴリーが存在するか、そのような認知が発達・進化の過程でどのように変容するかを明らかにすることである。 本年度は、同居・非同居(既知・未知)認識の形成過程に関する基礎的知見を収集した。まず、ラットの個体特性を行動特性テストで計測した。その後、ある個体にとって既知個体と未知個体の両方を含む4個体の群れをつくり、自由行動下の行動を追跡した。このデータを昨年度に引き続き解析し、十分な解析精度を確保できたため、その成果を日本動物心理学会第82回大会で発表した。成果の概要は以下の通りである。行動特性テストの結果、探索傾向、大胆さ、活動性、従順性といった個体特性が見られた。これらの特性が既知・未知個体に対する社会行動とどのように関連するのかを検討したところ、社会関係形成期には探索傾向が強い個体が未知個体と長く近接する傾向が見られた。また、家畜化に関連する性質である従順性に関しては、従順性が高い個体の孤立時間が長い傾向が見られた。また、特定個体に対する選好や近接距離の継時変化を関係形成期と維持期に分けて調べると、形成期に未知個体との距離が徐々に近くなる過程が見られ、維持期には社会関係が安定化する傾向が観察された。今後、これらの現象をより詳細に分析することで、同居・非同居という認識が形成されるまでの時間を推定できると考えられる。現在、上記の行動追跡実験の成果を投稿論文として準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同居・非同居(既知・未知)認識の形成過程に関する基礎的知見を収集した。まず、ラットの個体特性を行動特性テストで計測した。その後、ある個体にとって既知個体と未知個体の両方を含む4個体の群れをつくり、自由行動下の行動を追跡した。本年度は、このデータを昨年度に引き続き解析し、十分な解析精度を確保できたため、その成果を国内学会で発表した。しかし、解析精度向上に予定よりも時間を要したため、論文執筆はおおむね終了したものの、投稿までは至らなかった。これを踏まえて、解析が効率よく行えるような実験系を整えて、次の実験のための予備的なデータ取得・予備解析まで終了した。 また、ラットが同居・非同居という情報を効率的に処理するためのカテゴリーを持つかを検討するため、オペラント条件づけの訓練を実施した。しかし、訓練が予定よりも進まなかったため、この実験に関する成果発表はできなかった。これを踏まえて、オペラント条件づけ以外の方法で社会弁別能力を検討できる実験を追加すべきと考え、実験計画作成まで終了した。
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今後の研究の推進方策 |
同居・非同居(親近性の高低)カテゴリーが存在するかを検討する。まず、同居・非同居個体の生体の組み合わせを弁別させるオペラント条件づけを行う。そして、同居・非同居カテゴリーに属すると考えられる新しい刺激に対してどのような反応を示すかを検討する。ラットが異なる同居個体どうし・異なる非同居個体どうしに対して一貫した反応を示す場合、同居・非同居カテゴリーの存在が示唆される。また、訓練していない状態でも同居・非同居がカテゴリー的に認識されるかを検討するために、同居・非同居個体を刺激とした行動課題(馴化・脱馴化実験等)を行う。 さらに、同居・非同居認知に関する基礎的知見を収集するとともに、個体が蓄積した社会経験や行動特性が、同居・非同居個体に対する行動や認知に与える影響を調べるために、ラット群の行動追跡と行動特性テストを実施する。今後は、1回目の実験を踏まえて実験系を改良し、さらに多くのデータ取得を行う。具体的には、ラットの個体特性を行動テストで計測するとともに、ある個体にとって既知個体と未知個体の両方を含む群れをつくり、自由行動下の行動を追跡する。同居・非同居個体に対する社会行動における個体差(例えば、非同居個体に接近しやすい)が、探索傾向・大胆さ・従順性などの行動特性とどのように関係するのかを検討する。また、社会的相互作用の経時変化を分析し、同居・非同居という認知が形成されるまでの時間を推定する。 昨年実施分も含めた研究の成果は、第42回日本動物行動学会大会、日本動物心理学会第83回大会等の学会で発表するとともに、英語論文としてまとめて国際学術誌に投稿する。
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