研究課題/領域番号 |
22KJ0710
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補助金の研究課題番号 |
21J40088 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石田 夏子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | トポロジカルフォトニクス / トポロジカル絶縁体 / トポロジカルレーザ / 半導体レーザ / 大面積レーザ / PT対称性 |
研究開始時の研究の概要 |
近年, 自動運転や高度センシングをはじめとする次世代技術や超精密加工への応用に向け, 高出力単一モード半導体レーザの開発が進められている. 従来の半導体レーザでは, 高出力化に向けて発光面を拡大すると多モード発振が生じてしまい, 輝度の劣化に繋がることが課題とされている. 一方, 数学のトポロジーの概念を光に応用することで, 原理的には安定な単一モード動作が期待できる. 本研究では, トポロジーに守られた光を活用することでより高輝度・高安定な単一モードレーザを実現し, 半導体レーザの性能に革新的進化をもたらすことを目指す.
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研究実績の概要 |
次世代半導体レーザは, 小型・高効率・低消費電力などの特性を持ち, 光通信や自動運転などの多くの分野での応用が期待されている. 特に, 医療や産業分野での超微細加工や高速光通信においては高輝度化が重要な要素となり, その実現に向けてレーザの単一モード性が課題となっている. 一方, トポロジーを光に応用することで, 原理的には単一モードの光を完全に閉じ込めることができる. 本研究では, トポロジカルに守られた光のトポロジカル状態を用いて, 半導体レーザの革新的な性能向上を目指している.
昨年度までに, 2次元トポロジカルレーザの構造探索を目指し, 2層および3層の2次元トポロジカル絶縁体におけるトポロジカル状態を強束縛近似を用いて解析した. 2次元トポロジカル絶縁体では, 1次元エッジ状態と0次元コーナー状態の2種のトポロジカル状態が存在する. 系の角に現れるコーナー状態を発振させることで, デバイス構造欠陥や揺らぎにロバストなトポロジカルレーザの実現が期待される. 比較検討した2つの強結合モデルでは, 量子化された双極子モーメントを有するSu-Schrieffer-Heeger (SSH) 模型よりも, 四重極子を保持するBBH模型(四重極トポロジカル絶縁体)の方が, コーナー状態がバンドギャップ中 に存在するため, よりロバストであることが期待される. 利得と損失の分布を最適化した条件下での固有値解析の結果, コーナー状態とそれ以外のモードの発振しきい値利得差を比較すると, BBH模型の方が単一モードを維持できることが明らかとなった. また, BBH模型のトポロジカル層とトリビアル相を上下に組み合わせた2層および3層の積層モデルでは, 層間結合の強度に応じてコーナーモード数およびトポロジカル数が変化することから, トポロジカル相転移が起きることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①2層および3層の2次元四重極トポロジカル絶縁体のエネルギー特性について解析を行った. 本研究では, Benalcazar-Bernevig-Hughes(BBH)模型を上下に積層し, 層間結合強度tvを変化させてコーナーモードの特性を解析した. トポロジカルクラスの異なる層を上下に積層した場合, バンドギャップが閉じるtvの臨界値前後で系が有するコーナーモード数に変化が生じた. また, nested Wilson loopを用いてトポロジカル数を求めた結果, tvの臨界値前後でトポロジカル数が変化することも確認した. よって, 当該積層構造では, 層間結合強度に伴うトポロジカル相転移が生じることを明らかにした. 本成果については応用物理学会にて口頭発表し, 現在は学術誌への論文投稿に向けて準備を進めている.
②2次元高次トポロジカル絶縁体を用いたトポロジカルレーザ構造の探索を行った. 2次元SSH模型とBBH模型において系の角に局在する0Dコーナー状態のエネルギー特性を比較した. モード発振値(しきい値)の観点から, 利得と損失の分布をたすき掛けにした構造が最適であるとわかった. コーナーモード以外のモードとのしきい値利得差を比較した結果, 当初の予想通りSSH模型よりもBBH模型の方がよりロバストであることを明らかにした.
③前年度に取り組んだ1次元結合共振器アレイを用いたサイト間の結合定数を空間的に徐々に変調した単一モードトポロジカルレーザの解析を発展させ, 系の時間発展を詳細に解析した. Jackiw-Rebbi模型を用いてクエンチダイナミクスを解析した結果, 0次元エッジモードが安定して発振することを明らかにした. 本成果は, 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の江澤雅彦先生との共同研究であり, 学術誌Physical review Bにて出版された.
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今後の研究の推進方策 |
前年度に取り組んだ積層BBH模型に利得と損失を導入し, 積層型トポロジカルレーザの構造を探索する. 量子化した四重極子を保持するBBH模型は, 近年アレイ状のリング共振器や導波路で実験的に実証され, マイクロ波領域におけるフォトニック結晶での実証も提案されている. トポロジカルクラスが異なるBBH模型を上下に積層することで, 各層にエネルギーが縮退したコーナー状態が現れる. 当該コーナー状態を選択的に励起することで, 単層の2次元トポロジカル絶縁体よりもより高出力なレーザが期待でき, 新しいタイプの高出力大面積レーザを実現する可能性がある. 具体的には, コーナー状態とその他のモードの発振しきい値利得差をレーザの単一モード性の指標とし, 積層系における利得と損失の最適な分布構造の特定を行う. また, 前年度に比較したSSH模型を拡張し, 次近接サイト間結合を取り入れた模型でも同様の評価を行い, 両者のレーザ性能の評価を詳細に行う. また, 前年度より取り組んでいる積層BBH模型についての成果は, 本年度フランスで開催される国際学会(META 2023)にて発表を予定している.
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