研究課題/領域番号 |
22KJ0727
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補助金の研究課題番号 |
22J00388 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
梨本 真志 (2023) 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
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特別研究員 |
梨本 真志 (2022) 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 星間塵 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の電波天文観測の発展に伴って全天で発見された星間マイクロ波異常超過放射(AME)だが,その正体は依然として謎のままである.本研究の第一の目的はAMEの起源を解明することにある.AMEの放射起源候補として提案されている非結晶物質であるアモルファス星間塵による熱放射について,理論モデルを構築して放射スペクトルを定式化し,数値計算コードを開発する.構築した理論モデルをAMEの観測と比較し,モデルの優劣の判定,また従来モデルとの比較を行う.またAMEの天文観測とアモルファス物性の実験室測定の結果を統合することで,アモルファス星間塵放射モデルを制限し,アモルファス星間塵の対応物質の絞り込みを行う.
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研究実績の概要 |
本研究は,星間マイクロ波異常超過放射(AME)と呼ばれる正体不明の電波放射の起源解明を目指し,その起源候補として提案されているアモルファス星間塵の電波放射モデルを刷新し,電波観測データと比較することで,AMEに対するアモルファス星間塵放射の寄与を評価することを目指す.本年度までの研究によって,アモルファス物質の低温熱物性で発見されている普遍性を説明するために物性物理学の分野で提案されているソフトポテンシャルモデルをアモルファス星間塵の光物性へと応用し,アモルファス星間塵の電波放射スペクトルを算出する数値計算コードを開発した.本年度は,構築した理論モデルと観測データとの比較を通してモデル検証を行った.先行研究によって提案されているソフトポテンシャルモデルの解析近似的解法を採用した手法と,第一原理的に方程式を数値的に解く手法それぞれを用いて,AMEの放射強度が顕著な分子雲の観測データに対してモデルフィッティングを行ったところ,いずれの手法でも同程度の精度で観測データを再現できることがわかった.ただしそれぞれの手法から得られるベストフィットモデルから期待されるアモルファス星間塵の物性値は一致しない結果を得た.さらに解析近似的解法のベストフィットモデルは近似の適応範囲外を示す結果であった.ここで用いた近似は実験室測定もとにしており,このような結果は観測データと比較した分子雲は実験室測定で試料として用いられるアモルファス物質と星間塵を構成するアモルファス物質は異なる性質を持つことを示唆しており,アモルファス星間塵の化学組成や結晶構造を同定する上で重要な結果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,アモルファス物性の普遍性を説明するために熱物性分野で提案されているソフトポテンシャルモデルをアモルファス星間塵の光物性へと初めて適応して構築したアモルファス星間塵の電波放射スペクトルの理論モデルについて,その検証を行った. 第一の検証として,ソフトポテンシャルモデルの前駆的モデルである二準位系モデルとの比較を行い,両者の違いを定量評価した.両モデルにおいて対象とするアモルファス星間塵に同等の物性値を設定して計算したところ,両モデルから推定される放射スペクトルには有意な違いがあることがわかった.より高精度な観測データと比較して,星間塵の物性情報を引き出すためにはソフトポテンシャルモデルに基づく本研究の放射モデルが重要であることを示唆する結果であると言える. 第二の検証として,AMEが顕著な天体であるペルセウス分子雲に対して観測データと理論モデルの比較を行った.ソフトポテンシャルに基づく星間塵放射スペクトルは観測データを非常に良い精度で再現することができることを明らかにした.この再現性の精度は二準位系モデルよりも僅かに良いことを定量的に示した.また,観測データを最も良く再現するベストフィットモデルから期待されるアモルファス星間塵の性質として,先行研究で提案されているソフトポテンシャルモデルの解析近似的解法がアモルファス星間塵には適用できないことを示唆する結果が得られた.そのため,近似を用いない数値解法への重要性が高まったことから,数値解法を計算精度を保ちつつ計算コストを抑えるための新たな近似の導入,及び計算コードの改良に取り組んだ.そのため,当初の研究計画では次に実施する予定であった他の天体に対する観測データとの比較は保留されている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は,電波天文観測によって全天で発見されている正体不明の電波放射である星間マイクロ波異常超過放射(AME)の起源解明を行うことである.そのために,AMEの放射起源の候補の一つとして先行研究によって提案されているアモルファス星間塵について,その電波放射モデルを刷新し,放射スペクトルを算出するための計算コードを新たに開発した.またテスト天体に対する観測データとの比較による理論モデルの検証を実施し,本研究で構築したアモルファス星間塵放射モデルが観測データとの比較に有用であることが確認できた.そこで本研究の最終段階として,本モデルと先行研究が提案するモデルを用いて観測データと比較し,AMEの起源としての本モデルの優位性を統計的に調べることで検証する.また本モデルのみから予言される放射スペクトルの特徴を示すような天体が存在するか否かをアーカイブデータを用いて調べることで,本モデルの立証を目指す.また,観測データとの比較によって推定されるベストフィットモデルのパラメータ値と先行研究の実験室測定の結果を統合することでアモルファス星間塵の化学組成や結晶構造を制限し,アモルファス星間塵の対応物質の同定に貢献する情報を得る.
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