研究課題/領域番号 |
22KJ0811
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補助金の研究課題番号 |
22J11653 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高嶋 聡 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
2023年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2022年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | 液体アルゴン検出器 / MPPC / ASIC |
研究開始時の研究の概要 |
液体アルゴン検出器によるガンマ線イメージングが可能なコンプトンカメラ実証機を開発する。液体アルゴン検出器でガンマ線との相互作用を捉えるには、光電吸収やコンプトン散乱が起きた時に生成されるシンチレーション光や電離電子の量を測定する必要がある。本研究では可視光用MPPCとトランスインピーダンスアンプの一体型回路を開発してガンマ線イベントのトリガとしての役割を果たさせる。さらにすでに開発した256チャンネルのアノードピクセルプレートおよび低ノイズ読み出し可能な電離電子増幅回路を液体アルゴン検出器として組み合わせ、クライオスタット内で実際に運用試験を行う。
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研究実績の概要 |
2022年度は、ガンマ線源として運用可能な液体アルゴン検出器に搭載するシンチレーション光と電離電子それぞれを捉えるセンサーの開発および検出器の筐体・設置用具を開発した。シンチレーション光を大検出効率で捉えるためMPPC単素子の性能評価を行ったほか、4x4に単素子を並べたMPPCアレイを低ノイズトランスインピーダンスアンプに搭載してダーク信号やゲインなどの重要なパラメータを調べた。アンプの時間応答は非常に高速で、シミュレーションとの比較から気球上空でのガンマ線イベントと2次宇宙線の中性子バックグラウンドを判別することが可能であることがわかった。 電離電子信号の読み出しのため、256チャンネルの独立したアノードピクセルプレートの設計・製作を行なったことに加え、信号の多チャンネル読み出しが可能で低ノイズのプリアンプ・AD変換機能を持つASICを搭載したFront End Card(FEC)を設計した。FECのASICに制御信号を与えたり逆に信号を受け取ってデータ取得用コンピュータに転送するFPGAボードを購入したため、MPPC用アンプの出力をトリガ信号として受け取って処理するためのコードを開発し始めた。 さらに液体アルゴン検出器用を入れて高純度の液体アルゴンを充填するためのクライオスタットの設計も完了させている2023年度には実際に制作する予定である。 また米国コロンビア大学に滞在し、ニュートリノ検出器の専門家と議論をしながら液体アルゴン検出器用のガンマ線シミュレータを開発した。ガンマ線とアルゴンが反応することで生じる電離電子のドリフト・拡散を考慮することでより現実に近い環境で信号を模擬することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MeVガンマ線の分光撮像のコンセプト実証機の重要パーツであるMPPC単素子およびアレイ型について、ガンマ線のコンプトン散乱や光電吸収イベントをトリガ信号として捉えられるということを解析およびシミュレーションの観点から実証することができた。液体アルゴン温度でも運用可能なトランスインピーダンスアンプアンプを開発することができたため、固定用の治具を用意することですぐにTPCに取り付けて使用することができる状態になっている。電離電子信号の読み出し回路については、ガンマ線信号が外部ノイズの影響に弱いことが詳細なスタディからわかったため、電極をワイヤではなく256チャンネルの独立したピクセルで読み出すことにした。すでにピクセル電極を搭載した基板は製造が完了している。電離電子信号の増幅のために用いる、プリアンプ・AD変換器の機能をもつASICを搭載した基板も設計・製造が完了している。ASICからの信号を読み出すFPGAボードのロジック開発および性能評価は2023年度に引き続き実施する予定である。クライオスタットの設計はすでに終えており、研究拠点と自治体の安全審査もほとんど終了しているため実際に製造・組み立て作業を2023年度に行う。MeVガンマ線天体観測用のフルシミュレータの構築に向けて、Geant4を用いたガンマ線シミュレーションコードを開発した。偏光ガンマ線を解析して偏光度・偏光角を推定するフレームワークも取り入れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでMPPCの性能評価は暗電流もしくは可視光レーザーを使って行なっていた。小型の真空チェンバーの準備が整ったため、実際にチャンバーを真空引きしてガスアルゴンを充填し、シンチレーション光の検出実験を行う。電離電子読み出し用のASIC搭載基板の性能評価のため、アナログ入力側に何も接続しないでペデスタルを解析し、データ取得用コードの開発を進める。さらにアノードピクセルボードと繋いでピクセル電極の浮遊容量も含めたノイズ性能を評価する。 これまで光検出器と電離電子検出器の開発は独立に進めてきたが、シンチレーション光をトリガとして電離電子信号をコンピュータに取り込むシステムを構築する。シンチレーション光と電離電子にそれぞれ独立な絶対時刻を付与し、データ解析用コンピュータでガンマ線イベントとして取り込むためのソフトウェア系も開発する。すでに開発した、ニューラルネットワークを用いたガンマ線検出器用のイベント再構成手法をコンセプト実証機用に再学習させ、実際の電場などによるレスポンスを含めた詳細な解析手法も準備する予定である。 液体アルゴン用のクライオスタットが完成したのちには、液体アルゴン検出器を組み立てて内部に導入し、ガンマ線イメージングの試験を行う。ガンマ線源としては複数のコバルト60とイットリウム88サンプルをTPC外部に設置し、イベント再構成手法を使って最初の散乱角とエネルギーをイベントごとに推定する。さらに最大エントロピー法を使って実際の画像を再構成する。本研究で得られた結果をまとめ、査読付き論文として雑誌に投稿する。
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