研究実績の概要 |
非共面磁気構造のスカラースピンカイラリティに起因したトポロジカルホール効果は、これまでスキルミオンやNd2Mo2O7, Pr2Ir2O7などフラストレーション系の金属磁性体で報告されてきた。しかしながら、これらの物質は、キャリア密度が大きいことから、創発磁気輸送現象の系統的な研究やその制御が困難であった。 本研究では、電気伝導性パイロクロア型酸化物Bi2Rh2O7とスピンアイスDy2Ti2O7との酸化物ヘテロ構造を作製することで、磁性絶縁体Dy2Ti2O7の磁気転移をBi2Rh2O7の創発磁気輸送特性として電気的に検出することを目指した。その結果、縦磁気抵抗の磁場方位角依存性を測定し、Dy2Ti2O7において高磁場極限で現れる3種類のスピン構造(3-in/1-out, 2-in/2-out, 1-in/3-out)の相境界に対応する角度でピークが観測されたことから、Bi2Rh2O7がDy2Ti2O7の磁気転移を反映した磁気抵抗を示していることを確認した。また、異常ホール抵抗率にて符号反転が観察され、その磁場依存性はDy2Ti2O7の基底状態である2-in/2-out構造から3-in/1-out構造への磁気転移において予想される創発磁場の符号反転と良く一致した。このような符号反転は、従来の非磁性金属と磁性絶縁体の界面で出現する磁化に比例する異常ホール効果では説明できないことから、ヘテロ界面を通して創発磁場が伝搬し、トポロジカルホール効果が発生したことを意味している。また、Ptを電気伝導層とした場合には、符号反転を伴うようなトポロジカルホール効果は観測されず、磁性層と電気伝導層が同一の結晶構造を持つことが、創発磁場の界面伝播には必要であることを見出した。 以上の結果は、絶縁体であるためこれまで電子素子応用に至っていなかった磁性絶縁体のエレクトロニクス応用に向けた大きな発見である。
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