研究課題/領域番号 |
22KJ0891
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補助金の研究課題番号 |
22J12933 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分21060:電子デバイスおよび電子機器関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 太朗 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,700千円 (直接経費: 1,700千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 金属ナノシート / ガスセンサ / ジュール熱 / KFM / 自己組織化単分子膜 |
研究開始時の研究の概要 |
身の回りに漂う低分子ガスをセンシングすることで,疾病の兆候や環境の安全を知ることが出来る.本研究では,気相の情報を低エネルギーで繰り返し認識できるガスセンサを,金属ナノシートで創出することを目的とした.その実現には,ナノシート部だけに熱を局在させる設計と,繰り返し動作に耐えうるナノシートの表面制御が不可欠である.申請者はこれらの課題を,電極の構造最適化,交流電流の利用,新規温度計測手法の開発によるナノスケール温度測定,および合金化による耐久性の向上によって達成する.
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研究実績の概要 |
本研究課題では,気相の情報を低エネルギーで繰り返し認識できるガスセンサを,金属ナノシートで創出することを目的としている.その実現のために,高電流密度により発生するジュール熱をナノシート部だけに局在させる設計と,繰り返し動作に耐えるナノシートの表面制御が不可欠であり,これらを電極およびチャネル部の構造最適化と交流電流の利用によって実現することを目指している. 本年度は,ジュール加熱の適用に向けて,(1)硫化水素を選択的に検知できるAuナノシートについて,電極に低熱伝導率材料を採用することによるAuナノシートチャネル部への熱の局在化,(2)印加電流に交流電流を用いることによるエレクトロマイグレーションの抑制,(3)ジュール加熱時の温度分布を推定する新規ナノスケール温度計測手法の開発を行った. その結果,(1)については,Auより熱伝導率が5倍程度低いPtを電極材料として用いることで,チャネル部に熱が局在し,Au電極を用いた時に比べてより低エネルギーでセンサが動作することを見出した.(2)については,印加する交流の周波数が増加するに従ってセンサ寿命が向上し,10kHz以上の高周波で長期間の測定に十分な寿命が得られることを確認した.(3)については,Auナノシートにチオール系の自己組織化単分子膜を修飾し,ジュール加熱前後のデバイス表面の表面電位を取得することで,自己組織化単分子膜の分布から温度を分解能100ナノメール以下のスケールで測定可能なことを見出した.今後は,チャネル構造および電極構造の最適化,および温度分布測定の定量化を行っていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属ナノシートガスセンサをジュール加熱により昇温する際に問題になるのが,ジュール熱を発生させる高電流密度は同時にエレクトロマイグレーションによる断線の原因にもなる,という点である.エレクトロマイグレーションの抑制には,まず電流密度を低下させることが重要であり,そのためにチャネル部で生じた熱について,電極や基板への熱散逸を極力抑制することが求められる.本年度は,有限要素シミュレータを用いて電極の材料や構造を探索し,結果として低エネルギー化および投入電流密度が減少したことによるセンサ寿命の向上も達成された.また,本研究課題では,当初チャネル材料の合金化によるエレクトロマイグレーション耐性の向上を指向していた.合金化は,検知できるガス種の拡大や選択性の向上という観点では有効だが,合金化はチャネル部の抵抗が増加するため,感度の減少につながる.そこで,本年度は合金化以外のセンサ寿命向上のアプローチとして,交流電流を用いて一方向からの電子流による原子の移動を抑制し,エレクトロマイグレーション抑制を試みた.交流を用いることで,センサ応答特性が変化することが懸念されたが,直流と交流でセンサ特性は同一であり,一方でセンサ寿命は500倍以上に向上した.最後に,金属ナノシートガスセンサは検知したいガス種と金属材料によって最適動作温度は異なるため,低エネルギーセンサの実現にはジュール加熱によるナノシートの到達温度を正確に知る必要があるが,100nmスケールの温度測定を行うことは難しい.そこで,本年度は,温度測定手法の開発に注力し,結果,材料は限定的ではあるが,非常に簡便に100nm以下のスケールで温度分布を測定する手法の開発に成功した.以上のように,本課題の目的であるジュール加熱による熱の局在化とそれを利用した金属ナノシートガスセンサの創出を,最終年度の前年度にしてほぼ達成できている状況にある.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,まず低エネルギー化という課題に対して,低熱伝導率材料を電極に用いることで熱散逸の抑制を行った.一方で,金属材料では,Wiedemann-Franz則が成り立つため,低熱伝導率材料は同時に抵抗が高く,チャネル部の抵抗と電極抵抗が競合してしまい,結果として余分な熱の発生やセンサ感度の減少も引き起こす.ゆえに,ジュール加熱を用いた金属ナノシートガスセンサをデバイス化していくためには,電極や配線含めたシステムとして構造最適化していく必要がある.特に,チャネル部と電極・配線部の抵抗の競合という問題に関しては,チャネルの薄膜化やあるいは合金化による意図的な抵抗増大を行い,感度と低エネルギー化の両立を目指していく.また,交流電流の利用についても,現在は1MHz程度の周波数までしか実験を行っておらず,さらに高い周波数領域で更なる寿命向上が図れる可能性があるが,同時に高周波数領域ではインピーダンス不整合による反射が発生し,電力損失の原因にもなる.そこで,改めて電極構造の最適化を継続していく必要がある. 最後に,本年度に開発した,金属ナノシート表面への自己組織化単分子膜修飾による温度計測手法について,ジュール加熱によってチャネル部の単分子膜が完全脱離あるいは一部脱離し,分子が脱離することによる電位変化によって温度を推定するという手法であるgあ,分子の吸着状態と電位の対応については現在取れていない.特に,部分脱離の状態では,単分子膜の組織構造が乱されることによる電位変化なのか,あるいは分子の総量が減少することによる電位変化なのかの切り分けを行う必要がある.この温度と電位の対応付けを行い,定量化を行うことがジュール加熱を利用した金属ナノシートガスセンサ創出の実現に不可欠である.
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