研究課題/領域番号 |
22KJ0925
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補助金の研究課題番号 |
22J13974 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分37010:生体関連化学
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小菅 啓史 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,700千円 (直接経費: 1,700千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 多重特異性 / 蛋白質間相互作用 / 速度論 / がん抑制蛋白質 / 細胞接着 |
研究開始時の研究の概要 |
医薬品開発において、複数の標的分子に対して多重特異的に相互作用するmulti-target drugが注目されつつある。本研究では、生体内のがん抑制蛋白質PRELPの多重特異的相互作用を応用した新規抗がん治療薬の設計戦略を提案する。PRELPの相互作用蛋白質を同定し、組換え蛋白質を用いた物理化学的手法によってその相互作用機構を明らかにするとともに、細胞アッセイによってPRELPの多重特異的相互作用に基づく腫瘍抑制機能の創出機構を解明する。これらの知見をもとにPRELPに対して変異導入を行うことで、複数の相互作用およびシグナル伝達を同時に制御することができる機能蛋白質をデザインする。
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研究実績の概要 |
本研究では、生体内のがん抑制蛋白質PRELPの多重特異的な相互作用機構とそれに基づく腫瘍抑制メカニズムを明らかにすることで、PRELPの多重特異性を応用した新規抗がん治療薬の設計戦略を提案することを目的として研究を実施している。これまでにTGFβ1やIGFI-R、p75NTRをはじめとしたPRELPと相互作用する複数の蛋白質が既に同定されており、本年度はどのような分子機構でPRELPがこれらの標的蛋白質と多重特異的に相互作用しているのかを明らかにすることを目標に研究を実施した。PRELPおよび各標的蛋白質を組換え蛋白質として発現精製し、表面プラズモン共鳴法による相互作用解析を行ったところ、PRELPが各標的蛋白質と異なる速度論で結合することが明らかとなり、その相互作用メカニズムが標的蛋白質によって異なることが示唆された。さらに、N末端領域を欠損させたPRELPを用いた相互作用解析や各標的蛋白質のPRELPに対する競合結合解析の結果から、PRELPが異なる結合部位を介して複数の標的蛋白質との多重特異性を創出していることが推察された。 さらに、PRELPによる腫瘍抑制メカニズムを解明することを目的として、組換えPRELP蛋白質を用いた細胞アッセイを行った。PRELPの添加に伴うA549肺癌細胞の遺伝子発現変動解析を実施したところ、PRELPの濃度依存的にA549細胞における細胞接着分子の遺伝子発現レベルが著しく増加することが明らかとなり、PRELPががん細胞の接着を制御することで腫瘍抑制機能を発揮していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
PRELPの多重特異的相互作用の創出機構の解明を目的として研究を遂行した。特別研究員自身がこれまでに同定した複数の標的蛋白質TGFβ1、IGFI-R、p75NTRについて速度論的な相互作用解析を実施し、PRELPが標的蛋白質ごとに異なる相互作用様式で結合することを示唆する結果が得られた。さらに詳細な相互作用機構の解明を目指して、当初計画していたPRELPのX線結晶構造解析を試みたが、PRELPへの糖鎖修飾の影響で解像度の高い回折点を観測することができなかった。また、結合親和性が弱いために、水素-重水素交換質量分析法によってPRELPの相互作用領域を特定することも困難であった。しかしながら、その代替戦略として、N末端領域欠損PRELPコンストラクトを用いた相互作用解析および各標的蛋白質のPRELPに対する競合結合解析を考案し実施することで、PRELPの各標蛋白質との結合部位を示唆する結果が得られた。さらに、PRELPの腫瘍抑制メカニズムの解明を目的とした研究も遂行し、遺伝子発現変動解析によってPRELPの添加に伴う様々な細胞接着分子の発現向上が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、PRELPの多重特異的相互作用の創出メカニズムを明らかにしつつある。構造情報は得られていないものの、in vitroにおける詳細な相互作用解析の結果からPRELPと各標的蛋白質の結合部位を予測するに至っている。今後は、PRELPと各標的蛋白質の結合部位に対して、Rosettaソフトウェアを用いてアミノ酸変異を導入することで、野生型とは異なる多重特異性を示すPRELP変異体を設計し、その相互作用パラメータや細胞増殖抑制機能の評価を行う。また、本年度までに、PRELPが多重特異的相互作用を介してがん細胞の増殖を抑制していることが示唆され、細胞接着分子の発現変動も明らかとなっている。今後はPRELPの各標的蛋白質との相互作用を介したシグナル伝達制御を解析することで、さらに詳細な腫瘍抑制メカニズムの解明を目指す。
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