研究課題
特別研究員奨励費
固形がんでは血管の構築不全により誘導される低酸素、低栄養といった微小環境ががん悪性化を促進することが知られている。低酸素条件下における解糖系の亢進により形成される低pH微小環境については、未だ先行研究が少なくがんの適応メカニズムも詳細が解明されていない。我々は、東京大学先端科学技術センター大澤研究室が確立した独自低pH細胞培養系を用い、転写物、代謝物、オルガネラといった細胞の生命現象を網羅的に解析するマルチオミクス解析を駆使し、がん抑制および悪性化に関わる低pH特異的代謝変動を解明し、細胞外低pH反応性代謝適応を標的とした新規がん診断・治療法の確立を目指す。
低 pH 条件で培養した膵がん細胞株の転写産物・代謝産物のオミクス統合解析より、低 pH 特異的にアセチル化ポリアミン代謝物(N-1 アセチルスペルミジン)が細胞内に蓄積し、上流で代謝反応を律速的に制御する酵素であるアセチル基転移酵素 SAT1 の発現が 3 倍程度亢進することが明らかとなった。SAT1 の高発 現は大腸がん、前立腺がん患者などで予後不良となることが報告されている。ヒト膵がん細胞株を用いたマ ウス腫瘍移植実験では SAT1 発現抑制時に有意に腫瘍形成が抑制され、免疫染色から腫瘍組織への血管新 生や免疫細胞の浸潤が抑制されることを見出した。さらに、摘出腫瘍組織に対してセルソーティングによる イムノプロファイリングを行い、好中球が約 1/3 程度まで減少していることを見出した。また、マウス腫瘍のトランスクリプトーム解析から、SAT1 発現抑制により、Ccl2 や Il16、Cxcl12 などのサイトカインの発現 が低下することが示唆された。メタボローム解析では、SAT1 基質であるスペルミジンが蓄積し、下流の N1- アセチルスペルミジンが減少することが明らかとなった。このことから、SAT1 は上流ポリアミン代謝物で あるスペルミジン、および N-1 アセチルスペルミジンの蓄積を律速的に制御し、組織中に浸潤する腫瘍促 進性に働く血管や免疫細胞を動員しており、腫瘍形成を促進している可能性が示唆された。以上の研究成果を論文として発表している。(Maeda K et al. PNAS nexus 2023) 現在、SAT1 活性依存的な蛍光強度変化を検出するハイスループットスクリーニング系を構築中である。確立した活性評価法をもとに、東京大学内の低分子化合物ライブラリー、理化学研究所の創薬プログラムなどの共同利用施設を活用し、酵素活性阻害能を有する化合物候補を探索する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) 備考 (2件)
Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - General Subjects
巻: 1867 号: 5 ページ: 130330-130330
10.1016/j.bbagen.2023.130330
The EMBO Journal
巻: 42 号: 22 ページ: 15252-15252
10.15252/embj.2023114032
PNAS Nexus
巻: 10 号: 10 ページ: 1093-1093
10.1093/pnasnexus/pgad306
Cancer Science
巻: 114 号: 4 ページ: 1200-1207
10.1111/cas.15722
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20231010.html
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20231003.html