研究課題
特別研究員奨励費
アバタは、ある環境と相互作用するためにユーザが用いる、実身体とは異なる身体表象である。アバタはコミュニケーションの手段に留まらず、個人のアイデンティティ形成にも寄与する。本研究の目的は、ユーザが自身のアバタと結ぶ多様な心理的関係性を明らかにし、アバタがユーザの認知・行動を変化させる効果の機序と、その個人差の心理的・環境的要因の一端を解明することである。そのために、実験室実験における定量評価に留まらず、現場のユーザへのインタビュー等を通じた質的手法を用いる。またこれに基づいて、多様なアバタが共生する社会で起こり得る心理的問題を整理し、適切なアバタコミュニケーションのガイドラインを構築する。
本年度は,外出困難者がロボットアバターで遠隔接客に従事する「分身ロボットカフェ」において,自ら望んだバーチャルアバターを用いて接客を行うサービスを開発・導入することが,従業員の物語的自己に与える影響を調査した.分身ロボットカフェで働く7人の障害を持つ参加者それぞれに対して本人の希望に基づいた独自のバーチャルアバターを用意し,分身ロボットカフェの通常の営業現場において既存のテレプレゼンスロボットと組み合わせた接客サービスを約1ヶ月に渡って実施した.期間中に縦断的に行われたインタビュー調査の結果,量産型のロボットアバターは障害等の特定の身体特性を匿名化・後景化する一方で,カスタマイズされたバーチャルアバターは個性を顕在化・前景化し,それまで(ロボットアバターを使用していた時に周囲の他者から)位置付けられていたアイデンティティを解体するとともに,自らが望ましいと感じるアイデンティティの非言語的宣言として機能することが明らかになった.また,必ずしも最初から自らのアイデンティティの位置付けに対して違和感を持っていなかったとしても,他者とのコミュニケーションの中でアバターによって変調されたアイデンティティの宣言と位置付け直しのループを繰り返すことで,徐々に変化が見られる可能性も示唆された.アバターを通じた長期的な社会活動を通じて望ましい自己変容を導くには,アバターのユーザーのアイデンティティがアバター使用前に周囲からいかなる位置付けを与えられているか,その位置付けに対してユーザーはどのような受け入れ方をしているのか,またアバターを通じて宣言するアイデンティティがその位置付けをどのようにずらすことが可能なのかといった,他者を巻き込んだアイデンティティの宣言と位置づけ直しのループを考慮することが重要になると考えられる.
すべて 2024 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 図書 (2件)
情報処理学会論文誌デジタルプラクティス (TDP)
巻: 5 ページ: 10-19
情報処理
巻: 64 号: 8 ページ: d1-d21
10.20729/00226764
IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics
巻: 29 号: 5 ページ: 2304-2314
10.1109/tvcg.2023.3247112