研究課題/領域番号 |
22KJ1068
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補助金の研究課題番号 |
22J21520 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
仲川 久礼亜 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | スピントロニクス / スピンカロリトロニクス / 反強磁性 / 磁気相転移 |
研究開始時の研究の概要 |
スピンカロリトロニクスはスピントロニクスに熱流の自由度を融合させた学術分野であり、ここ十数年で急速に発展した研究領域として注目を集めている。本研究においては、反強磁性秩序を活用したスピンカロリトロニクス機能開拓を目指す。対象物質としては、特異な輸送特性が期待される反強磁性物質を新たに機能開拓し、輸送特性の測定、電子状態の実験・理論的観測からスピンカロリトロニクス機能の観測に至るまでの包括的な研究を行う。
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研究実績の概要 |
本年度においては、スピンカロリトロニクス素子機能への応用を見据え、2つのエキゾチック磁性体におけるスピントロニクス・スピンカロリトロニクス機能探索を行った。 第一に、狭ギャップ半導体である反強磁性体CrSb2における表面磁気特性の解明を行った。CrSb2では近年トポロジカルに自明な金属表面状態の存在が報告された。本研究では、CrSb2 の表面伝導層磁気輸送特性を明らかにするべく、自ら合成したCrSb2単結晶試料において低温高磁場での角度依存磁気抵抗効果測定を行い、表面伝導による異方性磁気抵抗効果を観測した。得られた結果は、表面状態がバルク状態同様の反強磁性を示すことを示すものであるとともに、表面状態における強いスピン軌道相互作用の存在が明らかになった。本成果は日本物理学会にて発表され、Physical Review B誌から出版された。 第二に、擬二次元反強磁性体BaNi2V2O8におけるスピンゼーベック特性を明らかにした。BaNi2V2O8は、二次元物質面において励起される渦・反渦磁気構造の結合・解離が絡むトポロジカル磁気転移、Berezinskii-Kosterlitz-Thouless(BKT)転移を示すことが報告されている。本研究では、未だ報告例のないBKT磁性体におけるスピントロニクス機能を明らかにすべく、BaNi2V2O8においてスピンゼーベック効果の測定を行った。従来の三次元磁性体では磁気転移温度で長距離磁気秩序が消失するのに伴いSSE信号が消失するのに対し、BaNi2V2O8においては強い短距離スピン相関に起因し、磁気転移温度の3倍ほど高温に至るまでなだらかに続くSSE信号を示した。本成果は国際学会APS march meetingにて発表され、arXivに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画においては、本年度はCrSb2の表面金属層における磁気輸送特性の解明を予定していた。実際には、CrSb2の研究に加え、擬二次元反強磁性体BaNi2V2O8におけるスピン流輸送特性の解明にも取り組み、当初の計画を大幅に上回る成果を上げることができた。CrSb2における非自明な磁気表面伝導状態は、物理的に興味深い対象であると同時に、観測されたAMR信号は強磁性体におけるAMRと同程度の大きさを誇り、スピントロニクス分野への応用が期待される。また、BaNi2V2O8におけるスピンゼーベック効果の観測はBKT転移系におけるスピンカロリトロニクス特性を世界で初めて明らかにしたものであり、エキゾチック磁性体のスピンカロリトロニクス素子への応用の道を切り開く革新的な研究であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度おいて実施したCrSb2の研究は、トポロジカルに自明な金属表面状態における磁性の存在を明らかにしたものである。これは一般的に報告されている金属表面状態が非磁性かつトポロジカルであることとは性質を異にしており、起源の解明が求められる。 そこで今後は、CrSb2及び類似の表面伝導特性を示すFeSb2における比較研究を通じて、これらの物質における表面状態のより詳細な理解を目指す。具体的には表面状態における空間反転対称性の破れに起因した非相反伝導特性を調べることを想定している。
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