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胸腺プロテアソームが産生するペプチドによるCD8+ T細胞の正の選択の制御機構

研究課題

研究課題/領域番号 22KJ1164
補助金の研究課題番号 22J23266 (2022)
研究種目

特別研究員奨励費

配分区分基金 (2023)
補助金 (2022)
応募区分国内
審査区分 小区分49070:免疫学関連
研究機関東京大学

研究代表者

渡邊 綾香  東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2023-03-08 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
キーワードCD8+ T細胞 / T細胞分化 / 正の選択 / 胸腺 / 質量分析 / MHCクラスI / プロテアソーム
研究開始時の研究の概要

獲得免疫系において機能する細胞障害性T細胞 (CD8+ T細胞) は、胸腺において「正の選択」を経て分化・成熟する。正の選択では、胸腺皮質上皮細胞 (cTEC) が提示する主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスIと、cTEC特異的な細胞内タンパク質分解複合体である胸腺プロテアソームが細胞内タンパク質を分解した産物から産出される抗原ペプチドとの複合体が必要である。しかし、正の選択に必要な抗原ペプチドのアミノ酸配列は不明である。
そこで、胸腺プロテアソームを欠損させたマウスcTECの抗原ペプチドの配列を調べることにより、正の選択に重要な抗原ペプチドのアミノ酸配列の同定を試みた。

研究実績の概要

獲得免疫系において機能する細胞障害性T細胞 (CD8+ T細胞) は、宿主細胞が提示する主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスIと、抗原ペプチドとの複合体を認識することで、免疫応答が開始される。抗原ペプチドは細胞内タンパク質分解複合体であるプロテアソームのタンパク質分解産物から産出される。CD8+ T細胞は、胸腺において「正の選択」と「負の選択」を経て分化・成熟する。特に正の選択には、CD8+ T細胞のT細胞受容体 (TCR) とMHCクラスI-抗原ペプチド複合体との「適度な」強度の結合および胸腺皮質上皮細胞 (cTEC) 特異的に発現しているβ5tが組み込まれた「胸腺プロテアソーム」が必要である。そのため、我々は胸腺プロテアソームが産生する抗原ペプチドが正の選択に不可欠であると仮定した。しかし、その具体的なアミノ酸配列とそれらが正の選択に寄与する分子機構は不明である。
そこで我々は、マウスcTECの抗原ペプチドのアミノ酸配列を質量分析で探索し、野生型とβ5t欠損型cTECで同定された配列を5種類ずつ合成することで、その生理的意義を探索した。
抗原ペプチドは、C末端の疎水性アミノ酸を介してMHCクラスIと結合するが、野生型ではβ5t欠損型よりもバリンの出現頻度が高いことがわかった。よって、抗原ペプチドとMHCクラスIとの間の相互作用が正の選択に重要である可能性を考えた。そこで、TAP-1を欠損し「空の」MHCクラスIを発現することにより、任意のペプチドを結合させられるRMA-S細胞を用いて、同定ペプチドとMHCクラスIの結合強度を調べた。その結果、野生型由来のC末端がバリンのペプチドが、MHCクラスIとの結合が極端に弱いことが判明した。以上より、MHCクラスI-ペプチド複合体の安定性そのものが、TCRとの相互作用の強さを制御する可能性を見出した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度の研究により、胸腺プロテアソーム特異的に産生される抗原ペプチドの特徴を同定することに成功した。さらに、胸腺プロテアソーム特異的に産生される抗原ペプチドのうち、C末端にバリンを有するものがMHCクラスIとの結合能力が低いことを明らかにすることにより、胸腺プロテアソーム特異的な抗原ペプチドが正の選択を可能にする分子メカニズムの解明が進みつつある。
先行研究 (Sasaki et al., 2015) では、β5tを強制発現させたマウス線維芽細胞を用いて抗原ペプチドを同定したのに対して、本研究では、cTECからサンプルを調製し、より生理的な条件での測定を可能にした。実際に、先行研究では、H-2Kbに対しては抗原ペプチドのC末端から3番目およびH-2Dbに対しては抗原ペプチドのC末端から4番目にプロリンの出現頻度が高いことに注目していたが、本研究では野生型とβ5t欠損型のいずれにおいてのプロリンはほとんど含まれていなかった。対して、野生型においてH-2Kbに結合する抗原ペプチドのC末端のバリンがより高頻度に検出されることについては、先行研究でも同様の傾向が見られていた。よって、本研究では生体で実際に存在する配列を同定できるようになった点において進捗が見られる。
また、正の選択には、MHCクラスI-抗原ペプチド-TCRの三者複合体の「適度」な強度の結合が重要である。本研究では、MHCクラスI-抗原ペプチド間のみの評価ではあるものの、三者複合体の結合強度につながる可能性のある結果を得ることができた。
よって、本年度はおおむね順調に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

TAP-1は、プロテアソームにより細胞質で産生された抗原ペプチドをMHCクラスIが発現している小胞体に輸送することで、MHCクラスI-抗原ペプチド複合体の形成に寄与することが知られており、TAP-1欠損マウスでは正の選択が障害され、CD8+ T細胞の数が著しく減少することが知られている。また、胎生13.5日目のマウスを胎仔胸腺臓器培養 (FTOC) によって培養をすることで、CD8+ T細胞の分化を評価できることが知られている。そこで、TAP-1欠損マウスを用いたFTOC系の培地に同定ペプチドを添加することによって、同定ペプチドがCD8+ T細胞の正の選択に必要な配列を有するか調べる予定である。
また、正の選択にはMHCクラスI-抗原ペプチド-TCRの三者複合体の「適度な」強度の相互作用が必要である。今回、C末端がバリンである抗原ペプチドがMHCクラスIとの結合能力が弱かったことから、MHCクラスI-抗原ペプチド-TCRの三者複合体の結合強度・安定性にも影響を及ぼす可能性がある。そのため、正の選択を誘導することが認められたペプチドを用いて、三者複合体の結合強度や構造を調べたい。
また、マウスMHCクラスIのサブタイプには、H-2K以外にもH-2DやH-2Lが知られている。その上、MHC分子にはハプロタイプと呼ばれる高度な多型 (a, b, d, k, q, s) などが知られている。サブタイプとハプロタイプの組み合わせだけでも、数十種類ものそれぞれ異なるペプチド親和性を持つMHCクラスIが存在することとなる。そのため、今回発見した抗原ペプチドの配列および生理的な特徴が、複数のサブタイプやハプロタイプに共通するものなのかを、質量分析やFTOCにより確かめる必要があると考えている。
以上の実験により、正の選択に必要な抗原ペプチドのアミノ酸配列およびその分子機構を明らかにしたい。

報告書

(2件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 2022 実績報告書

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公開日: 2022-04-28   更新日: 2024-12-25  

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