研究課題/領域番号 |
22KJ1171
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補助金の研究課題番号 |
22J23336 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分37010:生体関連化学
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
氏家 寛 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 抗体 / 膜蛋白質 / Cadherin / TNFRSF / SPR / 蛋白質科学 / 生化学 |
研究開始時の研究の概要 |
膜蛋白質は,細胞表面上に存在しており,細胞内外の連絡手段として様々な役割を担っている。外部からの刺激で細胞運命を制御可能である点から,膜蛋白質は様々な疾患の治療標的として注目されてきた。 本研究では,抗体と膜蛋白質間との相互作用の性質を、各種物理化学的手法を用いて分子レベルで精査するとともに,膜蛋白質が細胞表面上で実際にどのように集まり,機能を発現するかについて理解することを目標としている。 最終的には,膜蛋白質の制御を指向した抗体設計について,得られた知見に基づく合理的な指針を提案することを目指す。
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研究実績の概要 |
蛋白質はアミノ酸が連なり,折りたたまれて独自の立体構造を作り出し機能を発揮する生体分子である。例えば抗体は脊椎動物が持つ蛋白質であり,生体内に侵入した異物を高い親和性と特異性で認識し,排除する際の目印になる機能を持つ。一方,膜蛋白質は細胞表面に存在し,細胞内外の情報や物質伝達を担う蛋白質群であり,様々な疾患治療標的として注目を集めている。 本研究では,抗体の異物認識機能を改変し,治療標的である膜蛋白質を認識させるようデザインすることで,その膜蛋白質の機能を制御する「抗体医薬」に注目する。抗体医薬は近年最も注目を集める医薬品の1つであり,すでにがんや自己免疫疾患に対して高い治療効果を発揮する膜蛋白質認識抗体が臨床応用されている。しかし,それらの抗体は数多の抗体の中から莫大なコストと時間をかけて選別,改変された抗体であり,医薬品応用を見据えて抗体を合理的に設計する手法がますます求められている。 そこで本研究では,膜蛋白質を認識し,その機能を制御する抗体の合理的設計指針を提案することを目指す。昨年は膜蛋白質を抗体が認識する際の分子間相互作用の性質を物理化学的な手法を用いて精査した。本年では,モデル細胞を用いた実験を行い,細胞表面に存在する膜蛋白質に対する抗体の認識を定量的に評価することを目指した。 研究標的のLI-cadherinは2量体形成によって細胞間の接着を担う膜蛋白質だが,これに対する抗体を蛍光修飾し,LI-cadherin発現細胞に対する結合を共焦点顕微鏡によって観察した。また,抗体がLI-cadherinに結合し細胞接着能を変化させることが分かった。 もう1つの標的であるT細胞活性化因子OX40については,OX40発現細胞に対するOX40認識抗体の結合の強さをフローサイトメトリーによって定量的に評価し,分子間相互作用における結合の強さと比較した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LI-cadherinについては,モデル細胞として用いたFlp-in-CHO細胞のLI-cadherin恒常発現株に対し,昨年から利用している6種類の抗体がすべて結合することが細胞免疫染色によって確かめられた。また,Flp-in-CHO細胞のLI-cadherin依存的な細胞接着を抗体が制御する様子も確かめられた。特に,昨年明らかとなった抗体が認識するLI-cadherinの部位の違いによって,細胞接着が促進されたり,あるいは抑制される様子が観察された。さらに認識部位を2か所持つIgG抗体と1か所のみのFab抗体という異なる抗体フォーマットが,それぞれ細胞接着に対して異なる制御機構を示すことも示唆された。これらの結果から,LI-cadherinが持つ2量体形成から細胞接着に至るまでの分子機能を推察することができた。 OX40についても,モデル細胞であるHEK293細胞のOX40恒常発現株に対して,昨年から利用している6種類のすべての抗体が結合する様子がフローサイトメトリーによって確認された。組み換え発現によって準備されたOX40分子に対する抗体の結合速度論パラメータは抗体によってかなり異なり,特に解離速度定数は抗体間で1000倍以上の差があることを昨年突き止めたが,細胞表面のOX40に対してはその差は100倍以内に収まっており,細胞表面での抗体の結合活性には,解離速度定数に比べ結合速度定数が支配的である可能性が示唆された。一方OX40結合によるT細胞活性化機能をモデルキットを用いて検証し,OX40分子へ結合の解離速度が速い抗体ほどT細胞活性化機能が高いことが示された。OX40は細胞表面でのクラスター形成によってT細胞を活性化することから,解離速度の速い抗体がOX40への結合と解離を繰り返すことでOX40を近接化させ,細胞表面でクラスター化する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
LI-cadherinとOX40それぞれの研究標的に対して,昨年行った膜蛋白質分子に対する抗体結合の物理化学的解析と本年の膜蛋白質発現モデル細胞に対する抗体結合の活性評価を行ってきた。その結果,細胞表面での抗体の膜蛋白質認識機構や制御機構を,分子間相互作用解析によって明らかにしてきた結合部位や結合速度定数,解離速度定数によって特徴づけられることが示唆された。今後は抽出した特徴量をデザインし,その生物学的活性をより生体内環境に近いサンプルを用いて評価することで,求める機能を発揮する抗体を合理的にデザインすることを目指す。 具体的には,LI-cadherinについては,大腸粘膜上皮細胞や胃がん細胞を用いた組織免疫染色を行い,組織中で実際に細胞接着を担うLI-cadherinに対する結合を可視化する。各抗体がLI-cadherinの異なる部位を認識することが判明しているため,各抗体のLI-cadherin認識の差を比較することで,LI-cadherinの細胞組織中での分子状態を比較することができると考えられ,大腸の正常組織と胃がん細胞でLI-cadherinに細胞接着メカニズムの違いを考察することを目指す。 OX40については,昨年に引き続き抗体の結合部位を明らかにするため, X線結晶構造解析やCryo電子顕微鏡観察,HDX-MSを用い,結合部位とOX40結合パラメータ,そして細胞表面での生物学的活性との関係性を明らかにすることを目指す。また,超解像顕微鏡を用いてT細胞活性化を誘導するOX40のクラスター化を可視化し,各抗体のクラスター誘導能の差を評価することを目指す。さらに,細胞結合能とT細胞活性化機能において重要だと示唆された相互作用の速度論パラメータを変異導入によってデザインし,変異体間で細胞結合能やT細胞活性化機能を比較することで,作業仮説の妥当性を検証する。
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