研究課題
特別研究員奨励費
哺乳動物はその特徴として、出生後における哺乳行動がある為、仔の発達は外部環境の1つである哺乳養育環境に強く影響される。乳仔期は腸内細菌叢が形成され、髄鞘の発達が盛んに行われる時期である。母乳中成分の違い、母子分離、早期離乳といった哺乳養育環境の変化は、腸内細菌叢形成、髄鞘発達と関与することが報告されているだけでなく、腸内細菌叢と髄鞘形成の関係も報告されている。加えて、腸内細菌叢が産生する代謝産物が脳の生理機能に重要であることが報告されている。そこで、本研究は哺乳養育環境-腸内細菌叢-髄鞘インテラクションを証明し、哺乳養育環境と脳機能発達の一面を解明することを目的とする。
哺乳類は母乳で仔を育てるという戦略を選択してきたため、他の生物に比べ親と仔の繋がりが強く、仔の発達において哺乳養育環境の影響が大きい。加えて、我々生物は無数の細菌と共に進化してきたため、哺乳養育環境の影響が強いことは仔の発達だけでなく、腸内細菌叢に対しても影響を与えたことが示唆される。本研究は哺乳養育環境が仔の腸内細菌叢、脳発達に与える影響を検証することで、哺乳類の発達様式を明らかにすることを目的とする。本年度も昨年に続いて、哺乳養育環境の一つである母乳と、子の腸内細菌叢・脳発達、母乳による腸内細菌叢形成が脳発達に与える影響に着目し、研究を実施した。母乳成分に影響を与えるLAO1遺伝子欠損マウスの母乳を摂取した仔マウスは、髄鞘形成に関与するMbp、Plp1遺伝子の発現を海馬で低下することがわかった。更にはLAO1遺伝子欠損マウスの母乳を摂取した仔マウスからの糞便を移植された無菌マウスにおいてもMbp、Plp1遺伝子の発現が海馬で低下していた。糞便移植後の無菌マウスから採取した糞便を用いた腸内細菌叢の機能解析、代謝産物の解析を実施することで、母乳中成分の変化によって腸内細菌叢が産生する代謝産物に変動がおきることを見出した。さらにこれら変動がみられた代謝産物からMbp、Plp1遺伝子の発現を抑制する作用を持つD-glucaric acidを同定した。最後に、LAO1の酵素反応の際に賛成される過酸化水素に着目し、LAO1遺伝子欠損仔マウスに過酸化水素を投与した。その結果、海馬のMbp、Plp1遺伝子の発現が過酸化水素を投与することで増加することがわかった。加えて、血中のD-glucaric acidの濃度を低下させることがわかった。これらの結果から、母乳中成分が腸内細菌叢の形成を制御することによって、脳の発達に関与していることが示唆された。
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Behavioural Brain Research
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