研究課題
特別研究員奨励費
本研究は、同位体の構造に着目した同位体分子を利用し、天然ガスの起源を判別可能な同位体指標を構築することを目指す。天然ガスは主にメタン、エタン、プロパンなどの低分子炭化水素で構成され、地球上に広くガス田として存在している。これら炭化水素は、主に体積有機物の熱分解やメタン生成菌によりつくられる。一方で、一部には無機炭素の有機合成反応を経て生成されたものがあると考えられている。炭化水素の合成場は、生命進化において重要な環境であると期待されるが、炭化水素の起源を明確に区別する手法は未だない。本研究では、エタンの二重置換同位体分子を応用し、炭化水素の起源を識別する新たな同位体手法を構築する。
本研究ではこれまでに、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エタノール(C2H5OH)の炭素-炭素結合に含まれる安定同位体13Cの結合度合い(13C-13C存在度)を精密に決定する手法を開発してきた(Taguchi et al., 2020; RCMS)。次に、同位体濃縮した特殊な試料を利用することで、計測過程で生じる13C-13C存在度の変動を校正した(Taguchi et al., 2021; RCMS)。さらには、世界各地の天然エタンガスと実験で合成したエタンを分析することで、エタンの生成プロセスによって13C-13C存在度が明瞭に異なることを明らかにし、13C-13C存在度が天然ガスの起源判別に利用可能であることを世界で初めて示した(Taguchi et al., 2022 Nature Communications)。昨年度は、13C-13C存在度による天然ガス起源判別の適用可能範囲拡大のため、海洋研究開発機構(JAMSTEC)で実施されたマリアナ前弧域深海調査航海に参加し、蛇紋岩海山域に産する天然ガスの採取をした。本年度は、昨年度に回収したマリアナ蛇紋岩海山の炭化水素の化学・同位体組成と13C-13C存在度の分析を進めた。それには、海水サンプルからエタンを抽出するための自作ガス回収装置を製作し、運用した。エタンの13C-13C存在度を計測した予察結果は、有機物から熱分解で生成した生物起源エタンである可能性を支持した。さらに、昨年度は調査機器の耐圧制限により調査が困難であった3000mより以深のマリアナ海蛇紋岩海山を調査した。調査は、JAMSTECの調査船「よこすか」に搭載された有人潜水調査船「しんかい6500」で実施され、自ら「しんかい6500」に乗船し、チムニーなどのサンプルを採取した。今後、自作したガス回収装置を用いて炭化水素を抽出し分析を行う。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
ACS Earth and Space Chemistry
巻: 7 号: 12 ページ: 2489-2497
10.1021/acsearthspacechem.3c00224
Nature Communications
巻: 13 号: 1 ページ: 5790-5790
10.1038/s41467-022-33538-9
Microorganisms
巻: 7 号: 7 ページ: 1417-1417
10.3390/microorganisms10071417
Rapid Communications in Mass Spectrometry
巻: in press 号: 13
10.1002/rcm.9109
https://www.titech.ac.jp/news/2022/065170