研究課題/領域番号 |
22KJ1335
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補助金の研究課題番号 |
22J22440 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分20020:ロボティクスおよび知能機械システム関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
折金 悠生 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 振動的相互作用 / オクルージョン / 秩序形成 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,多数の人工エージェントが人間と移動空間を共有するロボットインクルーシブ社会の実現に向け,自律分散移動体集団の特性を設計する手法の構築を目指す.局所的通信から実装可能な相互作用を用いて,大域的な状態量を集団内で共有する.これを用いて内部のデッドロックや外部からの応答を,可能な限り個体のタスクを妨げない形で整形する.本研究では理論的な考察のみに留まらず,実ロボット集団で実装可能な手法の構築を行う.このために,集団内部で生じる遅れやずれの影響を解析する.これらの知見を用いて,ロボット集団を実装し,相互作用の導入とそれを用いた大域的特徴の応答設計を実現する.
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研究実績の概要 |
本年は自律分散的移動ロボット群のデッドロック解決のため,主に集団的な秩序の形成について研究を行った. 結合振動子系の相互作用を従来の拡散型から波動型に変更することで,各ロボットが他ロボットの位置を具体的に把握していないにも関わらず,集団内部での自身の相対位置を推定できる手法を提案した.各ロボットが自身の相対位置に基づいて行動を制御することで,集団の広がりという自由度を扱うことができ,これを拘束するような秩序形成につながることが期待され,国内会議で発表の後国際論文誌に採択された. 研究計画では実ロボットへの実装を目指している.これに向けて,波動型相互作用の実世界での実装についても研究を行った.有限要素解析に用いられるフォン-ノイマン条件を適用することで,相互作用におけるパラメータの上限をデバイスの処理速度から決定することができた.さらに相互作用における系のエネルギー関数を安定化させるために,粘性項と自励項の導入を行い,実ロボットデバイスにおいて継続的な相対位置推定を実現した.本研究では相互作用の解析に,有限要素解析や制御理論といった工学の様々な知見を融合させることができたと考えている.相互作用の実装性について取り組んだ本研究は国内会議にて発表を行い,第35回計測自動制御学会自律分散システム・シンポジウム 萌芽研究部門 優秀研究奨励賞を受賞した. まとめとして,本年度は集団内部での相対位置推定による内的な秩序形成,外界に対する整った応答の形成,実ロボットへの実装といった内容に取り組んだ.今後はこれらの研究を理論的に精査し,時間遅れの存在といった実世界の問題にいかに対処するかを考察したい.また,内的・外的な秩序形成を組み合わせたデッドロック問題の解決を,実デバイスでの実証を交えながら進める方針である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は従来の拡散的相互作用を改良した振動的相互作用の提案と応用手法の構築を行い,研究計画に対しおおむね順調に進展していると考える.研究計画では1年目において①外界変化に対する集団応答特性の解析及び操作,②集団的自由度拘束に基づく秩序の設計を行うとしていた. まず項目①に対しては,ロボット同士の衝突回避を保証する手法の一つである制御バリア関数が集団内に導入された際の応答特性に関する基礎的検討を行った.また,振動的相互作用を用いて外界環境に応じて集団秩序の起点となるエージェントを決定する方法を提案した.従って外界変化に対する応答特性の解析を実施し,その操作に至る前段階の手法を構築したことから,項目①に関しておおむね順調に進展している. 次に項目②に対しては,振動的相互作用により集団における幾何学的情報,例えば集団の大きさや相対位置を推定する手法を提案した.さらに推定した相対位置情報を用いることで,限定的な環境ではあるがデッドロックの抑止効果が実際に存在することが確かめられた.一方で,集団のなす幾何構造から自由度の拘束曲面を設計するような,幾何学に基づく解析や制御の手法を構築するまでには至らなかった.従って項目②は進展しているものの,当初の計画からはやや遅れていると考える. 研究計画では2年目以降に実施するとしていた項目③のロボット実装に関して,従来研究室にて保有していたロボットの改良を実施した.具体的にはバッテリ容量の増加やマイクロコントローラの更新により,項目①,②での成果実装が効率的に進められる実験環境の整備を行った.従って項目③については当初の計画よりも早期に進展しているといえる. 以上より,項目①については若干遅れているものの項目③で進展がみられることから,全体としては当初の計画通りおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
項目①,②を推進するため,他分野における知見を積極的に取り入れていきたい. まず項目①に関しては,振動的相互作用を用いた外界に対する応答整形を引き続き進めていく.集団のネットワーク構造に応じた応答特性の変化をシミュレーション及び理論解析から調べる必要がある.この実現のため交通渋滞に関する研究を応用できる可能性を模索している.交通渋滞の解析では車両の経路形状から固有関数を求め,これを用いた摂動の安定性を考える.これを応用し集団の存在する空間の固有関数の解析から項目①の実現につなげたい. 進展がやや遅れている項目②に関しても,リーマン幾何とそれを用いた時空間の解析,及びネットワーク空間におけるスペクトル幾何学の知見を取り入れていきたい.デッドロックの発生性は目標達成状態以外の平衡点の引き込みの強さによって表現できると考えられる.従ってスペクトル幾何学で議論されるような固有値の評価手法を用いて,厳密でなくとも引き込みの強さを考えることができれば,デッドロックを回避するような拘束曲面の設計につなげることができる. 項目③についてはこれまでにロボットシステムの構築が進んだため,①,②で提案した手法の実装実験に軸足を移す.特に項目①に関連して相対位置推定と制御バリア関数の重み調整を併せることで,実世界におけるデッドロック緩和について実験を行う. 以上のように異なる分野の知見と実機実装を通じて研究計画を推進する.
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