研究実績の概要 |
●層状窒化物半導体の高純度合成と電子構造評価 2次元の自然超格子構造を持つ遷移金属化合物は、通常の3次元的な構造をとる化合物には見られない、特異な電子物性を示す。AETMN2(AE = Sr, Ba、TM = Ti, Zr, Hf)は、絶縁体層と伝導層が積層した層状構造を持ち、伝導帯下端が2次元のTM dxy軌道で形成されると報告されていた。これはSrTiO3/LaAlO3ヘテロ界面と類似した2次元電子ガス構造をバルク内で内包すると見ることができ、特異な電子物性が期待できる。しかし、これまで不純物を多く含んだ試料の合成例しかなく、AETMN2本来の半導体物性は明らかにされていなかった。本研究では、AETMN2の高純度バルク試料を合成し、電気特性を評価することを目的とした。 窒素源にアジ化ナトリウムを用い、最適化した熱処理温度で固相反応させることで、純度90mol%以上のAETMN2バルク焼結体を合成することに成功した。拡散反射率測定から得られたバンドギャップは、SrTiN2で1.7 eV、BaZrN2で2.0 eV、BaHfN2で2.2 eVであり、第一原理計算により得たバンドギャップと整合した。全てのAETMN2の抵抗率は半導体的な温度依存性を示し、活性化エネルギーがSrTiN2の2.7 meVからBaHfN2の116 meVまで増加した。また、ゼーベック係数は負であり、SrTiN2の-28 μV/KからBaHfN2の-117 μV/Kにかけて増加したことから、キャリア濃度の減少が示唆され、光電子分光測定により得られたフェルミ準位の推移と一致した。欠陥形成エネルギー計算から、Ba化合物では窒素欠損や大気中の酸素・水素による不純物ドープが抑制され、キャリア濃度が減少し、抵抗率が増加したと考えられる。AETMN2バルク試料の高純度化によって初めて、電子構造を明らかにした。
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