研究実績の概要 |
本研究では層状Ni酸化物R4Ni3O8(R=Pr,Nd)に着目し、NiサイトをTi4+,Cr3+,Co2+,Cu+で元素置換することでキャリア量調節を行い、Ni-3d電子数を最適ドープ3d8.85に近づけることを試みた。 ①X線吸収微細構造実験の結果を解析し、元素置換によりNiサイトにホールドープされることを明らかにした。電荷中性から期待される電子ドープとは逆の振る舞いであるが、Niよりも3d電子数の少ないドーパント元素が電気伝導に寄与することで説明できる。②粉末中性子回折実験の結果を解析し、ドーパント元素はドープ量が少ない場合に限り、二つあるNiサイトのうち一方を優先して占有することを明らかにした。元素置換量が少ない方のNiO2面には酸素欠損が無いことも明らかにし、超伝導の舞台となり得ることが分かった。 ③熱起電力測定を行い、元素置換によりNiO2面全体として電子ドープされることを明らかにした。Niサイトへのホールドープと相反するが、酸素サイトが電子ドープされることで説明できる。しかしNiO2面全体のキャリア数が最適ドープ付近に到達していないことが判明し、これが超伝導発現しない原因と考えられる。 ④酸素サイトのフッ素F置換では、フッ素源をテフロンからCuF2に変更することで、より穏やかな条件でフッ素置換が可能になることを明らかにした。一方、フッ素のドーピングサイトのコントロールは困難であり、超伝導化には至らなかった。⑤電界効果ドーピングでは、電極やイオン液体の再検討により1Kまで安定して電気抵抗測定を行うことに成功した。しかし、5Vのゲート電圧を印加しても超伝導化には至らなかった。試料が多結晶であることも鑑みて更なるデバイス改良が必要と考えられる。 本研究はR4Ni3O8に対するNiサイト置換効果およびキャリアドーピングを初めて報告したものであり、今後の研究進展の基礎を築いた。
|