研究課題/領域番号 |
22KJ1492
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補助金の研究課題番号 |
21J21994 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
渡部 広機 信州大学, 総合医理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2021年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
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キーワード | 超瞬間凍結 / 凍結保護剤フリー凍結法 / インクジェットプリンティング / セルプリンティング / Self-quenching / ガラス化評価 / CO2レーザ |
研究開始時の研究の概要 |
精子や卵子凍結を代表とする細胞凍結は,多くの分野の基盤技術として重要である.しかし,凍結解凍過程で発生する氷晶を抑制するために,細胞毒性など様々な悪影響が報告されている凍結保護剤の添加が必須である.これに対し,我々はこれまでに,超瞬間的な凍結により凍結保護剤を全く必要としない細胞凍結法を創出してきた.一方で,その解凍速度は不十分であった.そこで本研究では,CO2レーザを用いた超瞬間細胞解凍装置を創出し,世界最高速解凍を実現する.これまで開発してきた超瞬間細胞凍結法と合せ,従来法以上の生存率やこれまで凍結保存が困難とされてきた各種生体材料の凍結保存に挑戦する.
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研究実績の概要 |
本研究では,CO2レーザを用いた世界最高速細胞解凍の実現と,凍結保存困難な生体試料への応用を目指している.R4年度は以下の項目について研究を行った. ・インクジェットヒータヘッド機構の開発.これまでは細胞内包液滴をできる限り小さくすることで凍結速度を向上させ,高い生存率を目指していたが,本年度の研究結果より20 pL液滴まで小さくすると,生存率が著しく低下することが確認された.これについて,落下中の液滴を伝熱と流体の錬成解析をしたところ,液滴が冷却面周囲から発される低温の風により冷却され,着滴前に0℃以下となることが確認された.そこで,落下中の予冷を防ぐヒーターヘッド機構を開発したところ,生存率を約15 %向上した. ・凍結液滴のための長期保存容器開発.前年度に開発した液滴単独落下法で回収した凍結液滴のための専用長期保存容器を開発した.回収した凍結液滴を,一般的な樹脂製チューブ内などで保存すると,保管中の僅かな昇華による生存率低下や液体窒素の流入による細胞数減少が確認されていた.一方で,開発した専用容器を用いることで,生存率低下を約5 %防ぐことに成功し,解凍後の細胞数も大幅に改善された. ・Self-quenchingを用いた液滴の凍結状態評価.前年度確立した蛍光Self-quenchingに基づくガラス化評価法を用いて,細胞内包液滴の凍結状態の評価を行った.細胞を内包したまま凍結した液滴を共焦点観察することで,200 pLでは針状の細胞外氷晶を無数に確認したのに対し,70 pLでは針状まで氷晶が成長しておらず粒状であることを確認した.さらに,細胞内環境をアルブミンで模擬して観察したところ,200 pLでは細胞内環境でも針状の氷晶が発生していたのに対し,70 pLでは氷晶が発生していなかった.これにより,これまで理論的な検討に留まっていた細胞の臨界冷却速度を実験的に推定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度は,凍結液滴に対して落下中にレーザーを照射する光学系の立ち上げに挑戦したが,実際に液滴の解凍までは実施できておらず,周辺技術の確立と応用に留まった.そのため,本研究全体の進捗が遅れている.一方で,凍結液滴の長期保存容器については,専用容器を開発し容器内の温度維持性や3日間保存した後の十分な細胞生存率や細胞数が確認された.また,本凍結解凍技術の基礎的な研究として,前年度確立した蛍光Self-quenchingに基づくガラス化評価法を用いて,細胞内包液滴の凍結状態の評価を行った.これにより,これまで理論的な検討に留まっていた細胞の臨界冷却速度を実験的に推定した.更に,これまでは細胞内包液滴をできる限り小さくすることで凍結速度を向上させ,高い生存率を目指していたが,本年度の研究結果より20 pL液滴まで小さくすると,生存率が著しく低下することが確認された.これについて,落下中の液滴を伝熱と流体の錬成解析をしたところ,液滴が冷却面周囲から発される低温の風により冷却され,着滴前に0℃以下となることが確認された.これに対して,落下中の予冷を防ぐヒーターヘッド機構を開発したところ,生存率を約15 %向上した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,まずCO2レーザによる超瞬間解凍の実現を最優先に研究を進める.一昨年年度の研究成果で,超瞬間凍結した液滴の単独落下法を開発している為,本手法を用いて液滴が落下中にCO2レーザを照射し超瞬間解凍する.光学系は既に構成済みであり,現在は制御システムを構築中である.本装置はクリーンブース内に構築してある為,無菌空間中での解凍が見込まれる.レーザ照射については,ランベルト・ベールの式に基づき有限要素解析ソフトウェアCOMSOL Multiphysicsを用いて照射時間を検討した後,超瞬間解凍をハイスピードカメラで観察しながらパラメータを調整する.理論的には,CO2レーザは波長が10,600 nmであり水への吸収効率が非常に高い.そのため,液滴表面での反射は小さく,液滴全体でレーザの熱量を吸収すると考えられるが,液滴の落下軌道なども考慮に入れ,照射時間と走査方法を決定する.超瞬間解凍の可否については,前年度に開発した蛍光Self-quenchingによるガラス化評価を用いる.超瞬間解凍された蛍光溶液のレーザ照射について,ハイスピードカメラで蛍光観察し液滴の輝度変化を計測する.これにより,落下中に結晶化した場合は蛍光輝度が著しく低下し,ガラス化状態から溶液状態へ直接的に解凍できた場合は,輝度が維持される. 最後に開発した一連の凍結・解凍装置を用いて細胞を用いた凍結解凍を行い,レーザ解凍による細胞ダメージを評価する.一般的な細胞株を複数,またヒトiPS細胞やヒトMSC等の幹細胞の凍結保存実験を行う.また,昨年度開発した長期保存容器を用いて長期保存も行い,本凍結解凍法の有用性を検証する.さらに,本年度中に血液細胞株を数多く保有するJason Acker教授の研究室へ訪問予定であるため,これまで凍結保存が困難とされてきた細胞種の保存に挑戦する.
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