研究課題/領域番号 |
22KJ1493
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補助金の研究課題番号 |
21J40127 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
田中 愛 信州大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | アドレノメデュリン / 腫瘍増殖 / 癌関連線維芽細胞 / 腫瘍微小環境 / リンパ節転移 / 血管恒常性維持 / 高内皮細静脈 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、癌の原発巣と転移巣を、血管とリンパ管を介した循環制御の観点から捉えることによって、癌転移を抑制する新しい治療法に展開することを目的とする。特に、転移先となる組織における転移前の環境=「転移前土壌」、さらには、癌を取り巻く癌微小環境に着目し、AM- RAMP2、AM-RAMP3系が、癌転移を抑制あるいは促進させるメカニズムを解明する。さらにAM-RAMP2、AM-RAMP3系を人為的に操作することで、癌の転移を抑制できるのか検討し、癌の新しい治療法に応用展開する。
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研究実績の概要 |
アドレノメデュリン(AM)は多彩な作用を有するペプチド因子である。 我々は、AMとその受容体活性調節タンパクRAMP2が血管の発生に不可欠であり、AMとRAMP2のノックアウトマウスが胎生致死であることを報告してきた。昨年度までの検討から、誘導型血管内皮細胞特異的 RAMP2 ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)では、血行性転移のみならず、リンパ節転移も亢進することを見出した。DI-E-RAMP2-/-では、リンパ球を免疫応答の場であるリンパ節へと移行させる特殊な血管:高内皮細静脈(HEV)の内皮細胞が血管内腔に向かって剥離し、基底膜が肥厚するなどの形態異常を認めた。 本年度は、もう一方の受容体活性調節タンパクである、RAMP3に着目した研究を進めた。転移予定先臓器の転移前の環境=「転移前土壌」、さらには、癌を取り巻く微小環境におけるAM-RAMP3系の意義を検討した。我々は以前、RAMP3ノックアウトマウスに癌細胞を移植すると、腫瘍増殖や転移が抑制されることを報告した。本研究では、宿主側ではなく、癌細胞側のRAMP3遺伝子の欠損が、腫瘍増殖に与える影響を検討するため、CRISPR-Cas9法によって、RAMP3遺伝子を欠損したE0771乳癌細胞 (RAMP3-/-細胞)を樹立した。C57BL/6Jマウスに癌細胞の皮下移植実験を行うと、RAMP3-/-細胞移植群では、コントロール細胞移植群と比較して、腫瘍重量が有意に抑制された。RAMP3-/-細胞移植群では、癌関連線維芽細胞(CAF)のマーカーであるSM22αや、上皮間葉転換(EMT)誘導因子であるTGF-β1およびSnailの発現低下が認められた。RAMP3は癌微小環境においてCAFの悪性化に寄与していることから、癌治療における新たな治療標的となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの解析で、DI-E-RAMP2-/-では、成体における血管恒常性維持機構の破綻が引き起こされ、それらは癌の転移前土壌を形成することを見出してきた。一方で、RAMP3ノックアウトマウスを用いた癌の転移実験については逆の結果となり、RAMP3が腫瘍微小環境における癌関連線維芽細胞(CAF)を悪性化することで、転移を促進することを報告した。そこで、癌細胞側のRAMP3遺伝子をノックアウトした細胞(RAMP3-/-細胞)を樹立し、皮下移植実験を行うとRAMP3-/-細胞では腫瘍増殖が有意に抑制され、腫瘍組織中に空胞化が散見され、組織中の線維化の程度も軽度であった。遺伝子発現解析から、RAMP3-/-細胞移植群では、未分化な線維芽細胞のマーカーであるMeflinの発現が著明に亢進していたことから、CAFの良性化によって、増殖が抑制されたのではないかと考えられた。次に、癌細胞とマウス胎児線維芽細胞(MEF)との共培養実験を行った。その結果、RAMP3-/-細胞群では、コントロール細胞群と比較して、細胞増殖が抑制された。さらにRAMP3-/-細胞群では、MEFの細胞サイズが拡大し、アクチンストレスファイバーの形成とSM22αの発現が低下していた。以上の結果から、癌細胞のRAMP3欠損は、腫瘍微小環境における線維芽細胞のEMTを抑制し、Meflin 陽性の良性CAFを誘導した結果、腫瘍増殖が抑制されたと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から、DI-E-RAMP2-/-とは逆に、RAMP3-/-では癌の転移が抑制された。最終年度では、DI-E-RAMP2-/-およびRAMP3-/-からCAFをはじめとした各種の癌微小環境構成細胞を採取し、表現型を比較検討し、各々の遺伝子発現変化を網羅的かつ経時的に観察する。次に、樹立したRAMP3-/-線維芽細胞および、RAMP3-/-癌細胞(E0771乳癌細胞)を様々な組み合わせでの共培養と移植実験を行い、癌細胞とCAFとの相互作用をマイクロアレイによって明らかとする。さらに、RAMP3-/-と血管内皮細胞特異的RAMP2過剰発現マウス(E-RAMP2 Tg)とを掛け合わせることで、AM-RAMP3システムの選択的阻害と、AM-RAMP2システムの選択的活性化状態を作り出し、癌転移抑制に繋がるか検証する。 また、RAMP2/RAMP3遺伝子のヒト型化マウスを用いた癌の増殖モデルや転移モデルの解析も進めていきたいと考えている。
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