研究実績の概要 |
本研究では、反強磁性スキルミオンの実現とそのデバイス応用を目指して、充填型β-Mn型カイラル強磁性体/反強磁性体A2Mo3N(A = Fe, Co, Pd)を用いた。Cサファイヤ基板上で反応性スパッターリング法によりエピタキシャル薄膜成長を行い、磁性元素(Fe、Co)と重金属元素(Pd)の組成を制御することで、スキルミオンの生成に関わるDzyaloshinskii-Moriya相互作用(DMI)の制御を試みた。その結果、(Fe, Pd)2Mo3Nにおいて室温で動作する微小サイズ(60 nm)の強磁性スキルミオンの生成に成功しました。これをLorentz-TEM顕微鏡法、トポロジカルホール効果 (THE)、およびノンコリニア磁気抵抗効果 (NCMR) を通じて評価した。(Co, Pd)2Mo3Nにおいては、Pdドープにより反強磁性ネール温度が室温以上に上昇し、反強磁性副格子によるカンティングによって弱磁化が観測された。さらに、巨大異常ホール効果の発見、トポロジカルホール効果の消失、およびノンコリニア磁気抵抗効果の観測から、室温で反強磁性スキルミオンが存在することが強く示唆された。 本研究により開発された(Fe, Pd)2Mo3N強磁性スキルミオンは、カイラル磁性体の中で最も大きなDMIを得られたため、室温において微小サイズのスキルミオンの実現に成功し、巨大なトポロジカルホール効果が観測され、スキルミオンによるトポロジカルネルンスト効果を利用した熱電変換デバイスへの応用が期待され、現在研究が進行中である。 一方、(Co, Pd)2Mo3Nカイラル反磁性体では、反強磁性であるため磁性が非常に弱く、顕微鏡法による観察が難しいという課題がある。しかし、トポロジカルスピンホール効果の観測により、反強磁性スキルミオンの更なる実証が可能と考えられ、現在研究が進行中である。
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