研究課題
特別研究員奨励費
アルツハイマー型認知症(AD)は脳領域間の神経細胞活動を必要とする空間記憶や視覚認知機能が障害される神経変性疾患である。近年、家族性ADの原因遺伝子保因者では白質病変が頭部MRIを用いて有意に検出され、認知機能低下と相関することが指摘されているが、その詳細な機序は明らかではない。本研究では、ADモデルマウス(AppNL-G-F/NL-G-F mice)を用いて、その白質病態の病態メカニズムの本質に迫るため、白質を構成するオリゴデンドロサイト(OL)が形成する髄鞘に着目し、髄鞘の変化に認知学習機能が相関するかを評価することで、白質機能の制御機構を解明することを目的とする。
脳領域間の神経細胞活動の時間的制御を行っているオリゴデンドロサイト(OL)及びその前駆細胞は髄鞘化を担うことが知られている。アルツハイマー型認知症(AD)では、成熟期におけるこの髄鞘化の制御機構が障害されることで、神経回路活動の時間的制御不全が起こり、高次脳機能障害が出現すると想起される。そこで本研究では、AD病態を再現するモデルマウスとして時期依存的に神経炎症、記憶障害を呈するAppNL-G-F/NL-G-F miceを用い、ADにおける高次脳機能障害の背景にあるOLの機能制御機構を明らかにすることを目標として取り組んできた。本年度は、OLの髄鞘を構成する脂質成分に着目し、髄鞘障害がADにおける認知機能低下に与える影響を明らかにするべく、右前肢運動学習課題を用いて、髄鞘の脂質変化が学習制御に与える影響の解明に取り組んだ。本年度は、まず野生型マウスを用いて以下の3項目に取り組んだ。(1)マウスの右前肢運動学習課題と一次運動野(M1)の神経活動の2光子カルシウムイメージング法を組み合わせ、学習に関連する神経活動を定量化した。その結果、成功したレバーを引く動作に関連するM1の神経活動が増加することを示した。(2)次に質量分析顕微鏡による解析により、M1 直下にある白質の脂質組成を定量化した。その結果、神経活動の変化に伴い、白質の脂質組成が変化し、学習前期でスフィンゴミエリンが増加し、学習後期でガラクトセラミド(GalCer)が増加することが示唆された。さらに、両脂質の発現レベルは、学習関連活動が増加した神経細胞の割合の変化と正の相関を示した。(3)最後に、RNA干渉法によりOL特異的にGalCer合成を阻害すると、運動学習効率が低下することが示された。(1)(2)(3)の結果より、運動学習が向上するメカニズムの一端として、髄鞘を形成する脂質組成が神経活動に応じてダイナミックに変化することを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
現在までの進捗状況としては、予定していた野生型マウスにおける右前肢運動学習課題下のカルシウムイメージング、質量分析、RNA干渉法を組み合わせることで、運動学習に伴って引き起こされる神経細胞の活動変化によって髄鞘の構成成分である脂質の組成変化が起こり、これが運動学習に必須であること及びその詳細なメカニズムを明らかにした。本研究は、当初の予定より早く進捗しており、成果発表を行えたことからも、当初の研究計画以上に進展している。
今後の研究の進捗方策としては、GalCer合成が運動学習の成立に伴った同期的な神経活動に寄与することからNKX2.2やOLIG2などオリゴデンドロサイトの分化に関与する因子(脂質発現調節の可能性)やミエリンプロテオリピッドタンパク質(PLP)やミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)などの髄鞘関連タンパク質との相互作用の観点からオリゴデンドロサイトの髄鞘制御機構に迫る。加えて、GalCerが実際にADモデルマウスにおける認知機能の低下に影響を与えているのかを右前肢運動学習課題により明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (5件)
Glia
巻: 71 号: 11 ページ: 2591-2608
10.1002/glia.24441
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/GLI_230726.pdf
https://www.amed.go.jp/news/seika/files/000115465.pdf
https://www.nips.ac.jp/release/2023/07/post_514.html
https://igcore.thers.ac.jp/news/560-2.html
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/07/post-539.html