研究課題/領域番号 |
22KJ1634
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補助金の研究課題番号 |
22J12473 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
八木 原風 三重大学, 生物資源学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,600千円 (直接経費: 1,600千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | ミナミハンドウイルカ / おばあちゃん仮説 / 閉経 / 年齢推定 |
研究開始時の研究の概要 |
繁殖の前に寿命を停止する現象(閉経期)は鯨類2種(シャチ,コビレゴンドウ)とヒトで知られており,祖母が娘の育児に参加し孫の生存率を高めることで自身の適応度を高めるられる場合に進化すると考えられている.祖母仮説として知られるこの理論は,安定した社会を有するヒトとシャチでしか検証されておらずその進化過程がわかっていない.本研究では流動的な社会を有し,閉経期を有する種と近縁であるミナミハンドウイルカに着目した.本種の老齢個体の役割を調べることで閉経の進化要因の解明を目指す.
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研究実績の概要 |
御蔵島個体群において,閉経期様現象が老齢な個体で発生しているか調べるため,2022年度は年齢推定方法の開発に取り組んだ.イルカを対象とした年齢推定方法は歯牙の断面に形成される成長層を数える手法が一般的である.しかし,この手法では捕殺や捕獲が必要となるため,たくさんの個体を生きたまま縦断的に観察するのには適していない.そこで,本種の特徴である年齢に伴い変化する体色を用いた年齢推定手法とDNAのエピジェネティックな変化に着目した手法を検討した. 東京都御蔵島では30年近くに渡り,水中映像を利用した個体識別調査が継続されている.これにより個体群の一部では生まれた年が把握されている.体色の変化を用いた年齢推定ではこれらの年齢のわかる個体について近接して撮影できた映像を観察し,各年齢での体色の出現度合いを調べた.体を4つの部位に分割し,それぞれの部位について体色の出現度合いを目測で3段階に分類した.それぞれの部位と斑点の出現度合いを年齢に与える影響で重み付けすることで数値化し,得られたモデルでは±2.58歳での年齢推定を実現した. 遺伝子を用いた年齢推定方法では,水中で個体識別ができた年齢のわかるイルカの糞を採集し,DNAを抽出した.近縁種のハンドウイルカで年齢とDNAのメチル化率に相関が報告されている2つの遺伝子について,HRM解析によりDNAのメチル化率を定量した.両遺伝子において年齢とメチル化率に有意な相関が認められ,年齢推定モデルの作成にも成功した. 年齢推定の精度では体色を用いた手法が勝るが,体色による手法には7.68-21歳の間しか推定できない制限がある.遺伝子を用いた手法ではより広い年齢帯を推定可能であり両手法は相補的に利点を有する結果となった.両手法の完成により過去に識別された全個体の86%以上,2020年に識別された個体の95%以上の年齢情報が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では,2022年度中に体色を利用した年齢推定と遺伝子を利用した年齢推定の二つの手法の開発を終えることとしていた. 年度内に2つの年齢推定手法を無事完成させることができた.また,体色を利用した年齢推定手法については,2022年度にアメリカの国際海棲哺乳類学会にて発表し同学会の発刊する科学誌Marine Mammal Scienceに投稿し掲載された.遺伝子を用いた年齢推定手法については実験と統計解析を終え,2023年度のアメリカの哺乳類学会での発表が決まっている.また,現在国際誌への論文投稿のため原稿の執筆に取り組んでいる.両推定手法により,個体群構成個体のほとんどの年齢を明らかにすることにも成功した.年齢情報が出揃ったため,2023年度は祖母仮説の検討に集中することができる.以上から,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は遺伝子を用いた年齢推定手法の結果についてアメリカの哺乳類学会が主催する国際学会での発表と国際誌への論文投稿を早急に行う. 得られた年齢情報を用いて御蔵島のミナミハンドウイルカにおいて確認されている閉経期様の現象が老化に伴う現象なのか検討する.このために,過去の識別情報を用いて年齢と出産間隔を調べ,寿命と繁殖能力の関係性を検討する. 本種における老齢期様の現象が祖母仮説に従うならば,祖母と仔の間に何かしらのインタラクションがあるはずである.そこで,仔とその母系の個体が他のメス個体と比較して有意に同じ群れにいる頻度が高いか検討する. 閉経期様の現象が老化に伴うものであることを明らかにした上で,祖母の有無や年齢,母の有無や年齢,祖母が閉経期に至っているか,初産で生まれた個体か否かなどの属性ごとに仔の生存率との関係性を検討する.解析は統計ソフトR上で行い,ログランク検定やCoxの比例ハザードモデルを用いた解析を検討している. 流動的な社会を有する種に見られる老齢期様の現象について祖母仮説が適用できるか検討した研究は少ない.本研究で本種の老齢期様現象を検討した結果,社会構造の全く異なる種で祖母仮説が支持されるのであれば仮説の正当性を強く支持することができる.一方で,祖母仮説で説明できない場合には閉経期の進化経路について再検討の必要性を示唆することとなる.
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