研究課題
特別研究員奨励費
琵琶湖のアユは、両側回遊型の海アユが琵琶湖に進出・陸封されて生じた集団であり、陸封後の気候変動下で回遊型を多様化させ、現在では遡河回遊型が非常に大きな集団サイズを持っている。また、現代においても緩やかな集団構造および各河川の規模によって各回遊型の頻度が規定されている可能性が高いと考えられる。本研究では、ゲノム科学的アプローチによって、回遊型間・規模の異なる河川間での集団構造の比較、および気候変動下で回遊型を多様化させた遺伝基盤の探索を行なう。さらに、産卵時期や繁殖参加量に着目し、生活史多型の分化・維持機構を解明することを目指す。
本研究では、両側回遊性を持った海アユが琵琶湖へ進出し、気候変動下で回遊型を多様化させた遺伝基盤、そして時空間的に不均質な湖・河川環境における集団内の回遊多型の維持機構を明らかにすることを目的としている。当該年度も昨年度と同じく、琵琶湖に流入する安曇川、天野川、和邇川、塩津大川において遡上アユの捕獲調査を春と秋の2回実施した。しかし、琵琶湖全体における記録的なアユ資源量の減少により、バイオマスの小さい春の遡上群について、天野川では全くアユの遡上が見られず、捕獲を断念せざるを得なかった。また、琵琶湖の個体群との比較のため、本年度は和歌山県の広川でも捕獲調査を実施し、両側回遊型の天然遡上アユを得た。各河川の各遡上群について、それぞれ12尾の組織DNAを抽出し、リシーケンス解析に供した。昨年度まで使用していたHiseq Xの試薬生産中止に伴い、新たにNovaSeq X Plusを用いたシーケンスへ変更を行ったが、これまで同様、全個体からゲノムサイズの×7~16のカバレッジで良好なゲノムシーケンスデータを得ることができた。現在は、新たに得られたシーケンスデータと、昨年度までに得られていた2年分のデータ、計288尾ぶんのデータを用いた解析のため、スーパーコンピューターを用いた解析環境を構築中である。